検事 久賀丞已 ~1st Impression~

短いノックの音に我に返ったが顔を上げたタイミングで、ドアが開いた。 「やっぱりここでしたか。もう十一時ですよ。部長が『篠塚がつかまらない』と私に電話して来て」 雅季は、向かい合わせた机の、二つの小島のある執務室に入って来…

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エピローグ

 平日の昼下がりだが、新幹線のホームにはキャリーケースを持った熟年女性のグループやブリーフケースを下げたビジネスマンの姿がある。 「『いい加減に帰って来い』って、とうとう母からメールがきちゃって」  晴美が眉尻を下げなが…

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第十八話

 K市の外国人墓地は、市営の自然公園の一角にあった。  応援のパトカーはまだ見当たらない。そのことに雅季は内心ほっとしていた。ここまで犯人を追いつめておきながら、目の前で横取りされるのはやはりいい気分ではない。  公園の…

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第十七話

ナビが目的地の到着を告げ、雅季はレストランの駐車場の前で車を止めた。道路の先にはバイパスの標識が見える。ガードレールの下手には畑が広がり、民家の灯りが寂しく点在していた。 街頭に照らされ、闇の中に浮かび上がっている三角屋…

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第十六話

「先ほどは、お見苦しいところをお目にかけてすみません」 助手席に座った久賀は、すぐに雅季に詫びた。「あの状況だと、誰でも場所を忘れて取り乱してしまうんじゃないでしょうか。特に身内のこととなると」 熟れた雅季の模範解答に、…

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第十五話

雅季の隣では久賀がパソコンの画面を睨んでいる。「玉置悟、過去二回スピード違反で引っかかっていますけど、それだけですね」 雅季は玉置悟の個人データを読み上げ、プリントアウトしたあと、警察のデータベースからインターネットブラ…

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第十四話

 柴山と多岐川が帰った後、久賀は新鮮な空気を吸いたいと雅季に告げ、警察署の裏口から外に出た。通りに面した正面玄関にも駐車スペースはあるが、裏の駐車場はその倍以上の広さで、パトカーが三台待機していた。やけに派手な赤い外車は…

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第十三話

「また来たの」  アパートのドアを開けたのは永瀬ではなく、妹の早紀だった。晴美がその場でフリーズしていると、早紀は「入れば」と小さく顎を引いた。  部屋に入った晴美は、なるべく時間をかけて、クローゼットにブルゾンを掛けた…

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第十二話

 翌日、雅季の休日は返上された。  管轄内で発見された三人目の犠牲者を知らせる電話に叩き起こされると、雅季は睡眠不足で、ぼうっとした頭に熱いシャワーで気合を入れた。仕事にプライベートを持ち込まない。鉄則だ。 『被害者、高…

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第十一話

「この店は事務官の柏木さんに教わって何回か来たんですけど、なんでも美味しいですよ」  久賀が案内してくれたのは、普通の民家のような定食屋だった。実際、二階から上は住居になっているようで、ベランダの物干に一枚だけ干された白…

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第十話

 始関と話を終えた久賀が捜査会議に顔を出し、進捗状況を確認して引き上げると、五時を過ぎていた。刑事部屋の入り口に近付くにつれ、嫌な予感が頭をよぎる。部屋に入ると、やはりそこには二時間前に見た光景があった。  雅季がパソコ…

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第九話

「丞くん、いたんだ!」  朝、寝室から出て来た久賀を見て、オープンキッチンの向こうで晴美が目を丸くする。昨夜、久賀が帰宅した時にはすでにリビングのソファーで晴美が寝息を立てていた。久賀の姿を見て驚いたのも無理はない。 「…

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第八話

 月曜日、雅季が十時に地検に着くと、久賀はすでに正面入り口で待っていた。今日は気温も穏やかで、彼は紺のトレンチコートを着ていた。今朝は検事正に事件の報告をした久賀を、雅季がパトカーで拾い、県警の科学捜査研究所を訪ねること…

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第七話

 規制線の手前に来た雅季は、窓を開け、近くにいた制服警官に身分証を見せた。相手はそれを一瞥し、目礼しただけで規制線内の持ち場に戻ってしまった。 仕方が無いので、パトカーが並ぶ近くの路上に車を停めると、広範囲を封鎖している…

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第六話

 捜査に進展がないまま迎えた金曜日の昼過ぎ、猪山(いのやま)署生活安全課の三橋警部から『被害者の物と思われる所持品を発見』と連絡を受けた久賀と雅季は、さっそく彼を訪ねた。   猪山署は鳴海東署から四十キロメートルほど離れ…

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第五話

 雅季が『マリア』の防犯カメラ映像を刑事部屋でチェックしていると、久賀が入って来た。横目で見た壁の時計は二時。庁舎に寄ってから来るという連絡は本人から朝一で受けていたので心づもりはあったが、まだ事件の進展がない時でも、こ…

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第一話

 篠塚雅季 (  しのづか まさき)が鳴海東 (なるみひがし)署に着任して四年。その間何度も――本庁に比べればその数は較べようもないが――殺人事件を担当して来た。だが、こんな死体に出会ったのは警察官として就任以来初めてだ…

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プロローグ

 駅の改札を出たとたん、冷たく湿った風が顔に吹き付けると、久賀丞已(くが じょうい)は思わず左手で、トレンチコートの襟を寄せた。顔をそこに埋めるように、歩き出す。ここ数日で積もった雪は融けてアスファルトの道に水たまりを作…

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