逢瀬 1

 私の上に覆い被さった仁兄は、ふと腕で体を支えて起こした。

 お互い身に何も纏っていず、ベッドの中だ。私たちはレストランが開店したばかりの空いている時間に夕食を済ませ、ラブホテルに入った。休憩二時間。そして部屋に入った直後から、普通の男女なら当然するであろう行為が始められていた。

「もうガマンの限界だった」

 仁兄が私を見下ろす。前髪の隙間に見える、欲望にきらめく瞳にぞくぞくする。私の中に沸き上がる、恐怖に似た感情を悟られまいと少し顔を上げて目の前の男にキスをした。

 月に二回の逢瀬。もう三年近く続いている。

 尚紀との付き合いは先月で一年半だから、それよりも前から続いていること。

『兄の一人が母を亡くしてから、精神不安定で月二回会ってるの。食事をして、話をして。セラピーみたいなもの。彼と私は兄妹の中で一番仲が良かったから』

 もちろん、嘘だ。

『いや、でも母親が死んでから一時期頭がおかしくなったのは本当だろ。だから、嘘じゃねえって』

 へらっと笑いながら、仁兄は楽しい思い出話のような物言いをした。

 仁兄はいつも私を邪険にしていた。嫌なものを見る目で私を見ていた。

「あ……そうだ……今日は泊まりでも平気だったのよ……」

 手の平で私の頬を挟み、貪るようなキスの、次のキスが下りてくる隙をついて言った。

 仁兄は薄笑いを浮かべる。不意打ちの展開に少し驚いて出たものだ。それでもそんな顔がこの兄にはよく似合う。

「じゃあ、ここ出たらまた飯でも喰って、別のところに行こうぜ。ラブホのはしごだ」

「遅くなると週末だから空いてないんじゃない?」

「ならラブホじゃなくてもいいだろ。もう、おまえ黙れ」

 だって……という私の言葉は仁兄の舌にすくい取られ、ぬめった舌はまだ言葉が残っていないかと口内をゆっくり探った。

「んぁ……」

 私は彼を追いかけるようにゆっくりと舌を動かす。

 くちゅりと唾液を絡み合わせながら口内でくねくねとうごめく二つの軟体動物は、愛おしげに柔らかな体を擦り合わせ、時には強張らせてくすぐりあう。小さな生き物から滲み出た粘液を飲み込むと、毒が回ったように思考は停止し、体の中心が疼き始める。皮膚が粟立ち、瞼の奥から次第に何かが開いてくる。私はただ、兄の柔らかな髪を闇雲に掻き回す。

「んん……」

 その動きに倣うように仁は乳房を包み、揉みしだく。

 口から這い出した彼の舌は顎を通り、私の肌に唾液のぬめりを残しながら下降して、硬くなり始めた乳首をざらりと撫でる。

「あ……」

 子宮の奥でじわっと小さな火がつく。私は思わず内腿に力を入れて、兄の体を挟んだ。

 私の脚の間に割り込ませた兄の体は、すべすべしていて、温い。恥骨に触れる彼のペニスだけが熱く、張っている。それはやがて私に熱を移していく。私は少し腰を浮かせて、それを確かめるように、煽る。

 仁の、肌をまさぐる荒々しい手つきと『ガマンの限界』という言葉が自然に調和し、体に沁みると、ふつふつと切なさが湧いてくる。

 私は腕の中にいる彼が、まるで小さな子供のように思えてしまう。喜びを隠さず、ひたむきに飛び込んでくるところとか。

 私を抱くとき、仁の口は言葉を発するより、食べることに忙しい。隅々を舐めとり、全てを吸い上げる。そしてやっと、精を注ぎ込む。

 儀式のように、なにかひとつでもこぼれ落ちることを許さないかのように、私を包み、埋め尽くしていく。

 私はすっかり仁で満たされる。

 彼の大きな手の平が太腿の裏を支え、そっと力が加わった。尻の丸みをなぞって、体を舐め回して湿りを失い始めた舌が、とうとう、たっぷり潤んだ襞の間に身を滑らせる。

「っふ……」

 首筋の後ろにぞわりと悪寒のようなものが走る。

でもそれは消えずに、仁がひと舐めするごとに波紋のように広がっていく。

 どうしてそんなところ舐めるんだろう。そんな所に顔を埋めて。頬張るように一心に。

 そんなところ舐めるのは動物くらいなのに。

 それに、それは仲間を認識したり清潔に保つためであって、こんなふうに舌をねじ込んだり、かき混ぜたり、くちゅくちゅと音を立てて弄ぶなんておかしい。そう。仁はおかしい。妹とセックスをするなんて。私も、おかしい。兄に脚を開いて誘って、舐められて喘いでいる。

 ねっとりと突起を転がされ、善がり声をあげている。

 おかしい。でも、気持ちがいい。

 おかしいくらいに気持ちがいい。腰から下は蕩けてしまって両脚の感覚がふにゃふにゃだ。

「やぁ……っ……もう、いい……、から………」

 私が腕を伸ばして彼の頭をそっと押しやると、その手首は強く掴まれ、人差し指は彼の濡れた唇の間に消えた。

「あン」

 指をしゃぶられ、股の間をちろちろとくすぐられてから爪の付け根を噛まれた。

「オレ、嘗めるの好きなんだよ。興奮する。比和の匂いとか、味とか」

 私の体が仁の唾液で痺れてしまうように、私から流れ出るものも、仁の体に作用するのだろうか。

 同じ血が流れる者の体液は彼の体の中でうまく混ざり合うのだろうか。

 そして仁は私の中に沈む。無理矢理押し広げていく感覚。

 私の腰にしっとりと食い込んだ指は私を引き寄せては押しやり、を同じリズムで繰り返す。浜に打ち寄せる波の動きが永遠に途絶えることの無いように。断続的に、ねちねちと結合部からねばついた音が耳に絡む。

「あぁっ……おにいちゃん……いい……」

 普段は決して使わない呼び方。

 それが、快楽に揺さぶられると自然に出てくるようになった。それを仁も知っているから、応えるようにぐいぐい奥を突いてくる。

 体を折った仁の乱れる呼吸が耳に掛かる。私は汗ばむ背をたぐり寄せる。

「もっと……おにいちゃん……おにいちゃん…………」

 仁に揺すられ、高みに導かれながら、閉じた瞼の裏に侑が浮かんでくる。侑兄……。

 おにいちゃん……。

「あぁ……あっ……おにいちゃん……名前、呼んで……っ」

 侑兄と同じ声で、名前を呼んで。

 束の間のとまどい。そして落ちて来る熱くて、掠れた低い声。

「ひわ……僕の比和子……」

 それだけで、ぎゅっと締まる。

 愛しい。愛おしいものを全て包む。仁はやがて勢いよく注ぎ込み、私は彼の熱でたっぷり満たされる。

 私に流れる同じ血液が育んだ精子たちが、私の中に。

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