巣立ち 3

 玄関の明かりがぱっと点くと、三和土にきちんと父と仁の革靴が並んでいるのが目に入る。仁の、溶かしチョコレートのような透明感のある艶の、上品な革靴を見るとなんだか胸にぐっと来た。

 こういうの、悪い兆候だ。喉が渇く。

 あまりにも家が静かで、耳鳴りがするよう。薄暗く、重い静寂と速まる動悸に押し潰されそうになりながら自分の部屋に荷物を置き、洗面所に下りる。その頃にはうっすらと酔いが引いていた。

 化粧を落とし、顔をたっぷりのぬるま湯で洗う。

 ワイドパンツを脱ぎ、ストッキングから脚を抜く開放感。キャミソールを洗濯機横の篭に入れる時、仁のワイシャツが放り込まれているのを見て、再びどきんと心臓が鳴る。

 思わず手を伸ばして、気がつけばそれに顔を埋めていた。

 深く息を吸い込む。

 仁の、一日掻いた汗と香水のかすかな名残。

 彼の体温を探すように。彼の欠片を自分の中に取り込むように。同化させるように。

 程よく火照った体の熱は奥のほうで欲望の小さな炎になった。アルコールで、制御が緩んで理性があやふやになる。

 ワイシャツを戻して、下着のままで足音を忍ばせ上に行く。

 仁の部屋のドアノブが立てる小さな金属音は、私の心の扉が開く音。

 私は真っ直ぐ彼の寝ているベッドに近寄り、仰向けのその体を跨ぎ座る。

一瞬苦しそうに眉を寄せる横顔。ハッと目が開いて、私の視線とぶつかる。見下ろす私の視界に彼の困惑顔が暗闇でおぼろに浮かんだ。

「……比和?」

「うん」

 彼は私のお尻の下で少し身じろぎをした。でも、それだけだった。動かないのか、動けないのか。 

「おまえ、部屋違う……」  

 寝起きの掠れ声。もうそれだけでゾクゾクする。

「侑兄……しよう。ねえ、しよう。私、したい。今すぐ侑兄としたい。起きて、侑兄……」

「オレ、侑じゃねえぞ……てか、おまえ服……おい、」

 仁の声が固い。心が折れそうになる。

 でも、決めたの。酔わないでこんなこと出来るわけないじゃない。でも、どこかで覚めている。冴えている。

「嘘つかないで。侑兄。最近全然抱いてくれない……私のこと、嫌になった? もう私には飽きたの? いい加減、他の女の子がいい?」

 彼のTシャツを掴み、子猫がママ猫の乳房を押して母乳をねだる仕草で、彼の固い胸を押す。

「酒臭い……酔ってるのか? おい、しっかりしろよ……オレが今までどんだけ自分を…………」

 眼が慣れた暗がりの中、ほとほと困り果てた顔をした兄は黙ってしまった。

 その先を言ってしまったら、彼の今までの努力が水の泡になってしまう。その先は、言わなくてもわかってるよ。知ってる。

 仁兄はずうっと抑えていたでしょ。

 私の気持ちの変化にいち早く気づいて、それでも頑に、ずっと我慢してたでしょ。

 だから、そんな仁兄は良き兄として認める。十分認める。

 ただ、愚兄の侑として、抱いて欲しいの。

「おねがい、侑兄……侑兄、侑兄……ゆうにぃ……」

 たがが外れたように侑の名が口からこぼれて止まらなくなった。

 気づけばしゃくり上げていた。

 こんな芝居を打たなければ仁とセックス出来ない。なんだか情けなかったし、侑に、仁に対するそれぞれに違った罪悪感で苦しかった。

 どうして自分がこんなになっちゃったんだろう。

 だだをこねて、泣いて、我がまま言って。兄じゃなきゃだめで。

 ねえ、突き放してよ。

 ふざけるな、って突き放して。そしたら、いろいろちゃんと終わると思うの。終わらせられると思うの。

「泣かないで…………僕をそんなに、困らせないで」

 仁が諦めたように言う。

 その口調は侑そのものだった。そして、そのセリフをずっと昔私は一度聞いている。耳にこびりついて、忘れるわけが無い。

 すべてがあの美術室へ逆戻りし、そこから一気に蘇るものでさらに涙はあふれる。

 仁の指の腹がやさしく目尻を拭う。

「僕のせいで、泣いている……? ごめん、比和。おいで。寂しい思いさせて、ごめん」

 寂しかったよ。すごく寂しかった。

 堰を切ったように一気に涙が流れる。

 ……このひと、馬鹿だ。

 なんで侑のマネしてるの。一体何を考えているの。

 もう、甘やかさないで。それ以上甘やかしたら、どんどんつけあがるよ、わたし……。

「僕も、寂しかった……」

 この一言で、私は崩れる。

 全てがどうでもよくなる。わたしと、仁と。それだけでいい。どうしてこのことに早く気がつかなかったんだろう。

 ゆっくりと彼の上で体を折っていった。

 仁の手が頭の後ろに、背中に回され、優しくキスへと導いた。

 胸の上についた手の平から、仁の鼓動が伝わる。……早くて、大きい鼓動。

「酔った勢いで男と寝るなんて、金輪際しないこと」

 瞼に、頬に、唇に柔らかなキスをしながら彼は低い声で言った。

「うん……」

 説教臭いところも、侑?

 ほとんど裸だった私と、Tシャツにスウェットだけの仁は瞬時で脱がし合って。

 昇り始めたお互いの熱を分け合う暇も無く、荒々しく咽ぶようなキスをしながら、逸る気持ちに前戯の手つきすらもどかしかった。

 すでに濡れていた襞の間を擦る強張りを体をずらして無理矢理中に入れた。早熟な十代のようなセックスで、下から激しく突き上げられ、私はすぐに達してしまった。

 だって、すごく欲しかったから……。

 後ろから抱きすくめられて、ゆらゆら体が揺れる。この感じ。

 脚を投げ出して座った仁に背中を向け、開いた膝を折って彼のいきり立ったもを深々と呑み込んでいる。

 奔放に腰を振るたびに、ぬぷりぬぷりといっぱいに押し入ってくる感じを味わう。

 うなじをくすぐる仁の前髪と背を焦がす荒い息が私を一層駆り立てる。 

「あっ……ん……っ…………これ、すき……」

 ぅん……。

 仁が喉の奥で唸り、答える。

 肩に噛み付かれて、そのままねっとりと嘗められて。

 乳房は後ろから回された手にすくいあげられ、強弱の変化で捏ねられ、遊ばれている。

 全身がとろとろ溶けて形を無くしていくのに、中心に穿たれた彼の張った芯が、熱い。

 擦られて、擦られて摩擦で中が焼かれる。後ろ手を回して彼の髪をまさぐる。乳房を愛撫していた手が私の顎を捕えて、横に向かせると、仁の舌が強引に差し込まれる。

 ねっとりと動くそれに応えながら、お尻を彼に押し付け、前後させた。上も下もぬるぬるで、すごくいやらしくて。でも止まらない……。

「あ……だめ…………そこ……っ……ん」

 内股を柔らかく撫でていた仁の手は、ゆっくりと脚の付け根に近づき、彼の雄に絡み付いている襞をなぞった。そしてとうとう核心に触れる。つるりと表面をなでると、そのままつるつると突起を転がすように粘液の中で指を滑らせた。

「ひゃぁ……ん…………っ……あっ……あ……」

「おまえのここ、温かいハチミツみたいだ……とろとろで、気持ちよ過ぎ……」

「ああぁぁん! ……やっ……やぁっ……それ、だめ、いっちゃう……」

「いきな。比和。いっていいよ。いくとこ、見せて……」

 そんなふうに、甘く囁いて。耳のなかをくちゅりと舌でくすぐって。淫らなハチミツにまみれた指が花芯を小刻みに震わせ続けるから。

 ちらちらと目の奥で煌めき始めたものを追いかけて、追いかけて彼の上で跳ね続けて。ぶるって全身が震えた。乱れていた息が一瞬止まる。

 その刹那、彼が口に指をねじ込んだから、それを噛むのと同時に、私はイッた。

 ぐったりしている私を仁は優しくベッドに伏せると、繋がっているぬめりの中からまだ固く勃起したままの己をずるりと抜いた。ぽたぽたと私の体液がお尻に滴った。

「あ……やだ………」

 虚無感に襲われる。くすり、と後ろで笑う気配が落ちてくる。

 肩越しに振り返ろうとすると、その瞬間抱きすくめられて、反転させられた。正面に彼の微笑む眼差しと遭う。

「まだ……オレ、まだいってないし。まだ、比和が足りない。全然足りない……」

 その言葉に胸が押しつぶされそうになる。何か言おうと口を開きかけると、それは彼に塞がれた。

「んン……っ」 

 そして熱が脚の付け根から奥へゆっくりと入っていく。奥まで達すると、再びそれをぎりぎりまで引き、溢れる蜜の中に突き刺す。

 上も彼の舌に犯されて。下もねじ込まれたものでいっぱいで。

 腰は彼の動きに合わせてひとりでに揺れてコントロールなんて利かない。もう自分の体じゃないみたい。

「あ、そこ……あっ……あ……あ」

 激しい抽送を繰り返す仁の、奥に当たるところから、今まで無い刺激が体を貫いた。

 鳥肌が立ち、彼をぎゅっと締め付けるのが自分でもわかった。

「ん……ここ?」

 悩ましげな顔を見せる彼も、もうすぐ達するのだろう。それでも彼はそこを突き続けた。

 肌がびりびりする。背中をぞくぞくと快楽が走り抜ける。

 ぴたりと合わさる肌は汗に滑らかで。しっかりと抱きしめられて、逃げられない。中で暴れる快楽にかき混ぜられて、目眩がして、苦しくて。

 ひくひくと喉が鳴る。

「や……やっ、やっ…………はぁああっ」

 仁にしがみつく。ぽっかりとひらいた深い穴に落ちないようにしがみつく。

「……っ、比和………ひわ……」 

 大きな溜め息とともに、彼は素早く私の上に精を散らした。

 すごく、切ない。満たされているのに。彼は荒く息を乱しながら、再び私をきつく抱きしめる。彼から放たれる匂いを吸い込みながら、私も体に腕を回す。

 ねえ、夢じゃないからね。

 夢で終わりにしないでね。これは現実だからね。

「……比和、大丈夫?」

 私の上で脱力し、伸びていた仁がやっと肘で肩を起こして私を覗き込んだ。急に肺が楽になって、私の体温が持って行かれる。今起きたことが自分の中でどんどん具体的になっていく感じに、私はとまどいながら、やっと彼に焦点を合わせた。ぼやけていた彼の顔がはっきりとしてくると、そこには不安な表情があった。

「うん……ねえ……なにかお話しして。いつもみたいに」

 私の横で額の汗をシーツで拭いながら彼はくぐもった声を出した。

「そんな余裕ねーよ、バカ」

 侑兄は私にバカなんて言わないよ……。

「女があんなに声出すのってAVだけだってわかった。男だって最中は必死だから、喋ることないよな」

 それでも言葉を継ぐ仁は少しでも侑になろうと努力しているのだろうか。なら、ヒントはたくさんあげないと。

「……侑兄は喋ってたよ。セックスは入れる前と後に女の子を楽しませるのが礼儀だって言ってた。入れてる時は特にいたわって、だって」

「おまえ以外にそんな小細工必要ねーだろ……どんだけおまえに尽くしてるんだ、侑は」

「知ってるくせに」 

 シーツから顔を上げた仁は不貞腐れた顔をしていた。

「わかったよ。今度おまえとやる時は面白い話のひとつでも用意しておくよ。でも最中に喋るとか侑、よっぽど余裕がなかったんじゃねーの。早漏? オレ違うけどな」

「最低! そんなこと言うとか! 仁兄最低!! 同じDNAから出来てるとは思えないよ」

「だからわかるんじゃねーか。よっぽど嬉しかったんだよ。おまえを抱くのが。オレが言うんだから間違いねえ……って言わせるな、ばか」

 彼はいきなり身を起こして私に覆い被ると、首に軽く歯を立てた。

「ンっ……」

 そしてまるで噛み傷から流れた血を嘗めとるように丁寧に何度も首筋を舌を這わせた。

 耳の後ろを強く吸う。一瞬そこが熱くなり、きっと小さな火傷になった。

「見えるとこは、やめて、ね……」

 了解……。

 それから体中に付けられる火傷。その間にもまた一層熱いペニスで中を抉られて。

 抉られて埋められて。

 それでももっと欲しくて、引き寄せるように掴んだ彼の尻の固い筋肉が手の中で自在に伸縮した。

「も……やだぁ……や……ぁ」 

「駄目だ…………好きだ……好きだ、比和……ひわ……」

 口の中で乳首を転がしながら何度も何度も繰り返されるその言葉は、侑のもの? それとも、仁、あなたなの?

 私よりも出勤時間の早い仁は、私の寝ている間に出掛けて行った。

 起きたら仁のベッドに一人置き去り。不覚にも仁が掛けてくれた目覚ましで初めて目が覚めた。それでも、私の顔の横にピンクのウサギが横たわっていたので良しとする。

 情事を仕事に引きずらないのは大人になった証拠かな。

 心はときめいていたけれど、そんな素振りは皆目見せずに接客し、ニュートラルに仕事をこなした。家に帰れば夕食の準備をする。

 セットしていたご飯は炊きあがり、出勤前に作った野菜スープの味を整える。

 帰りしに買ってきた焼き鳥もオーブンに入れておく。

 二十一時を過ぎて父が帰宅。

 仁はもう少ししたら帰って来ると聞き、父の食卓にグラス一杯のビールでお付き合いをする。

 仁は今夜、父が言うように帰ってくるのだろうか。昨日の今日で、どんな顔をすれば、どんな言葉をかければいいのだろうか。

 そんなことを思いながら、私の仕事の話と、父の事務所の話を交換しながら、彼が食事をするのを見守る。

 最後に、私のお手製のきゅうりとキャベツの浅漬けでビールを空にして、父は欠伸をしながら食卓から立った。食器をシンクに運んでテーブルを拭いていると、玄関から仁の声がした。

 ただいま。

「おかえり」 

 彼はそのままキッチンに顔を出した。いつも通りの彼。

 美しいポーカーフェイスは彼の人生に培われて来たもののひとつだと、その時にはわかっていた。

「オヤジは? もう寝たの?」

「うん。さっきまでお晩酌に付き合ってたんだけど、『二十二時過ぎると眠くなる』って。ご飯は? 私食べてないの」

「ああ、腹減ってる。着替えて来るから」

 テーブルに二人分の夕食を支度する。スープと、ご飯と焼き鳥のお皿と漬け物。

 つくねは仁の好物だから二本、余計に盛ってある。缶ビールの横に、切り子のグラス。

「おまえ、また今日も一日服たたんでたのか」

 席について開口一番がそれだったから、カワセミが川魚をさらう素早さで私は向かいの皿からつくねの串を奪った。

 スープの椀から彼は慌てて顔上げる。

「あっ! ひでえ!」

 おかずをとられただけでこのリアクション。幾つなのいったい。目があまりにも必死で、なんて可愛いんだろう。

 ああ、またぐっときちゃったじゃないか。

「ちゃんと売りました」

「美人店長が、だろ」

 また箸を構えると、仁は皿を抱えるようにして防御した。私はその皿につくねを戻す。

「なんで店長のこと知ってるのよ」

「侑が言ってた。すごい美人だって」

 睨んでいる私を意にも介せず彼は言う。

 へえ、そう。相変わらず侑とは仲良くしているんだ。

 それであなたはどんな顔で今日彼と話したのよ? 

 ドヤ顔ってやつ?

 思わずツッコミたくなったけど、昨日のことを思い出したら急に恥ずかしくなって続く言葉が見つからなくなり、箸先で串から肉を外すのに専念する振りをした。

「そ、そうよ。すごい美人なんだから。バイトのエレンちゃんとさつきちゃんもすごく可愛くて、彼女たちが着ているアイテムはすぐに売れちゃうんだからー」 

「じゃあ、オレも見に行かないとな」

「うん? なんで? そんなに店長に会いたいの?」

「いや、でも侑も行ってたんだろ」

 ん? 侑は関係なくない?

 なんだか腑に落ちないけれど、仁が仕事の話をし出したので、それに相づちをうちながら箸を動かした。

「ごちそうさまでした」

 仁は両手を合わせ、形式張ってぺこんと頭を下げる。

「おそまつさまでした」

 彼と私の食器を片付け、デザートのプリンを冷蔵庫から出して再び彼の前に座った。

 彼は私の後ろの蛍光灯をぼんやり見ながらビールを静かに飲み、私も黙ってプリンを口に運んだ。

「あのさ、オレ、侑の代わりにならないかな……」

 テーブルの上で小さくビールのグラスを揺らしながら、彼は真っ直ぐ私に視線を移していた。

「え?」

 最後のカラメルをすくったところで、思わずスプーンが宙で止まった。

「オレには、お前が必要だって。やっぱりお前じゃなきゃ駄目で。お前がオレのこと嫌いなのは分かってる。侑のこと忘れられないっていうお前の気持ちも知ってる。オレがこんな不安定な状態だから側にいてくれてるのも分かってるし、感謝している。でもそれ以上に、オレにはお前しかいなくて……今更何言ってんだってカンジだろ? でも、昨日のこと……それで、はっきり分かって。

侑だったら……お前がオレを侑に重ねて見れるなら……」

 何言ってるの。ホント、バカみたい。

 同じに見れるわけないじゃない。二人とも全然違うわ。

 バカにしないでよ。侑は、もういないのよ?

 鈍い人。

 そう思いながら、私はじっと彼から視線を外すこと無くスプーンを口に運んだ後、ついて出た言葉は全く違うものだった。

「いいね、それ」

 お芝居でも代役をたてる。この芝居を二人でもう少し演じてみよう。

 だめならだめで、芝居は跳ねるだけのこと。

「僕、明日早いから、もう寝るけど」

「それ、すっごく不自然だからやめて」

 そうかな、結構似てたと思うんだけど。首を傾げながら仁はグラスに残ったビールを飲み干した。

 私は思わず吹き出す。仁もにやり、と笑う。

 プリンのカップと、空になった缶を取り上げ、彼に背を向けながらゴミ箱に落とした。

 ばか。そっくり過ぎて心臓止まるかと思ったよ……。

 春一番の風が吹いていた。

 それは私の中で風が惹き荒れていた記憶かもしれない。

 いつのまにか後ろに来ていた仁が私を抱きすくめる。息が耳をくすぐる。心臓が、静かに、そして確実に高鳴っていく。

 それが、背中に伝わる仁の鼓動とシンクロする。

「侑の部屋で、する?」

「うん」

 舞台はより、現実に忠実な方がいい。

「ありがとう」

 彼が低く囁いた。

 こうして仁と私の関係は始まった。それはどんな不埒なものでも私の望んでいたものだった。

 それから少しして迎えた二十四の誕生日は、仁が祝ってくれた。D&Gの”the One”が彼からのプレゼント。

 ——おまえの香水、侑を思い出すから。

 仁は意外と感傷的だ。

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