本当の兄弟 2

「ごめん、なんか自分見失って、ついがっついた。まず風呂でも入って汗流すか」

 まるでマンガのキャラように、照れて頭を掻く隆兄が可愛く見えてしまう。

 普段見せない兄の狼藉に、怯えた気持ちも消えてしまい、代わりに慈愛にも似た感情がわいて来て彼の腕に触れた。腕の筋肉を手に感じ、知らない男だと自覚する。

「兄妹水入らずで……すごい久々だね」

 水入らずか。隆兄は曖昧に笑った。それは自身に対する冷笑にも見えた。

 ガラス張りのバスルームで、ピカピカに磨かれたシャワーも蛇口も照明を弾いている。手早く髪ゴムで髪をアップにまとめた。

 恥ずかしいから、私が先にバスタブに浸かり、後に入って来た兄は私への配慮か、腰にタオルを巻いたままシャワーを浴びた。私たちは薄いピンクの丸いジェットバスに向かい合っている。吹き出す泡と波の起伏で幸いにもお互いの体の線はぼかされている。

 お湯から出ている兄の、肩から腕は筋肉の描くくっきりとした曲線が滑らかだ。肘は縁に預けられ、濡れて暖色の照明の下で艶めいている。 

「逞しくなってる……」

「どっちが? 俺が? ムスコが?」

「え? あ……いつの間に」

 タオルは既にバスタブの縁に引っかかっていた。私は兄のほうに四つ這いになり、その強張りに手を伸ばした。

 水草のように揺らぐ、そこだけ濃い体毛が指をこそぐる。手を押し返す威勢にとまどう。

 兄の顔を見ると、満足げに目を細めた。濡れた髪が聡明な額を半分ほど隠している。私はペニスから手を浮上させてゆっくりと肩から腕を撫で下ろした。彼は頭を反らし、されるままになっている。喉仏がゆっくり上下した。

「薬会社の白衣組なのに」

「俺、高校から柔道やってるぞ? おまえ俺のこと何も知らないよな。ちなみにこの日焼けはハッタリだ。デートの約束が無い週末にベランダにデッキチェア出してサングラスしてマンガ読んでる。田舎のアパートのベランダは広い」

「ぶは、無駄な知識だー。……ねえ、柔道の選手ってパンツはいてないってホント?」

「そこか。兄との空白の時間を埋めるにおまえの知りたいのはそこか……パンツなあ……」

 隆兄が片手で私のお尻をさわさわと大きく撫でた。

「きゃん」

 ゆらりと前のめりに、兄の首筋に顔から突っ込んだ。

 急に密着して、なんだか恥ずかしいからそのまま首に腕を回す。こうしていれば顔を見られることは無いから。

「穿くと蒸れるし、動きが激しいから擦れたり、パンツが破れたりするんだよ。

 だから基本、はかない。つーか、今はそれ用のパンツ、売ってるけど。ところでおまえスリーサイズは?」

「へ? そこ? 隆兄が知りたいの、そこ? 上から82、62、88くらい……あん!」

 兄はお尻を撫でながら、いきなり空いてる手で乳房を掬った。ゆらゆらと浮力を確かめるように弄びながら彼はやんわりと揉み込む。

 腰が鈍く疼く感じを覚え、思わず喉元に額を擦り付けた。

 両手で乳房を寄せたり、指の間に乳首を挟みながら乳房を包んで、円を描くように手を動かす。私の体が揺れる度にちゃぷん、ちゃぷんと二人の体をお湯が打つ。ただでさえ体があったまってるのに、芯からじわじわって……

「いいね、その数字かなりそそる。ってか、侑がそこまで育てたかと思うと長男としては微妙なんだが……おい、のぼせそうか? 上がるか」

 ぐったりと兄の肩に頭をもたせかけた額の上で顎が動く。

「ん……隆兄が急に変なことするから……」

 いやー、変じゃないだろ、この場では。言いながら、首にしがみついたままの私を抱えるようにして軽々と湯から出た。

 そしてそのまま縁に座り、私を膝の上に乗せて後ろから再び乳房に手を伸ばして揉み始める。彼はうなじに軽いリップ音を立てながら何度もキスをした。キスされたところは火の粉が散ったように一瞬熱くなる。

「ん……っ、やん……」

「そう? こんなに固くして? 自分の、ちゃんと見てみろよ」

 言われた通り視線を落とすと、大きな手に押し上げられた乳房、そしてその頂の色の濃さを増した突起が目に飛び込む。

 それを摘む兄の指先。立ちあがったものはきゅっと挟まれ、引っ張られる。

 何度も繰り返される猥雑な光景。それでも先端から流れるむず痒いような、痺れるような感覚にうっとりと喉を反らす。

「感じてる?」

「うん……きもちいい」

「比和は素直で可愛いな。……これからおまえの体を泡だらけにして洗いながら悪戯をするというのが通常の流れなのだが、」

 隆兄は耳元で囁きながら、合間に耳たぶを口に含むことも忘れない。

 胸への愛撫と、耳を這う舌のぬめりに溶けそう。

「……だが?」

 私は兄の腕の中で体を捩らせて先を促す。

「ボディソープの匂いをしみ込ませて家に帰るのは、あまりお利口さんじゃないと思う。特に異様に鼻の利く犬が一匹うちにいるからな」

 冗談か皮肉かわからないトーンは、舌先と一緒に耳に押し込まれた。

「やぁ……」

 隆兄の手はいつの間にか脚の間に伸び、指は襞の間を撫で上げた。

「とろっとろじゃん、おまえ……もっと脚広げて」

 そのまま動きを止めずに器用に間接を折り曲げて入り口を掻き回している。私は言われるが侭に膝を左右に開く。

「だって……隆兄エッチなことするから………ひゃ……っ」

 つるん、と彼の指先は芯の上を滑った。その不意打ちは私の欲望を一気に引きずり出した。

「おまえ、もしかして男って侑だけ? 侑しか知らないの?」

「ん……そう、よ……ぁあ……」

 隆兄はクニュクニュと蜜を塗り込むように核の根元を軽く押し回す。

 そこが、びくんびくん痺れる。腰に力が入らなくて体は兄の胸に沈み込む。

 さっきからずっとお尻の割れ目に、どくどくと脈打つ熱い塊が当たっている。

 たぶん私は、それが欲しい。それも、早く。

「羨ましいっつーか……じゃあ、俺が侑以外の男か……冥利、っつーのかこういうの」

「しら……ない、よ……。あ……も、っと……そこ、いい……ぁ…………」

 核に触れるか触れないかの繊細な指の動きが私を狂わせる。もっと、乱暴にしていいのに。そんなのじゃ、足りなくて。もっと欲しくて。

「比和、腰動いてる。やらしいなおまえ……欲しいんだろ。でも、まだだ」

「ああぁ……いじわ……るっ…………ン」

 乳首を強く弾かれ、閉じた瞼の奥で光が散る。同時にぬちゅ、と内部に指が入り込んで来た。

「これだけで、吸い付いて来る……ぬるぬるだぞ」

「あっ……! それ……いい…………もっと、奥…………ぁ……いいの……」

 兄は指をゆるゆると抜き差ししながら、器用にもう片方の手は親指と中指で襞を左右に押し広げた。

 充血して膨らんだ蕾を剥き出すと、人差し指で擦り上げる。内壁を撫でられるようにとぷんとかき混ぜられると、頭の中にも甘い渦が巻く。

 陰核への刺激は確実に体の奥から官能を上へ上へと押し上げている。

 兄はもう一本指を潜り込ませた。

「ひくひく中が震えてる……ここが、いいのか?」

 うなじに掛かる兄の吐息も、熱く、荒い。

「いい、そこ……ンあ…………だめ……、やっ、も、っと…………」

 もう、自分の言っていることがわからない。もっと欲しくて。でもこれ以上されたら壊れちゃいそうで。

 指で、そんなふうに中をかき混ぜたら、だめなのに………くるくる、そんなふうに、クリトリス押し上げたら……きもちよすぎて。お腹の奥がきゅんきゅんして。

「やん、やっ……たかにいぃ…………いい……も、だめ……っ」

 ぞわりと首筋に軟体動物が這い上がった。ぬめる舌に全身が粟立った。

「あ……はぁっ…………やーーぁ………!」

 隆兄は蕾を指で強く挟むと同時に、中の指をお腹のほうへぐんと押し上げた。

 びりっと四肢が痺れ、突き抜けた官能に一瞬意識を奪われた。

「すげ……可愛い、比和。おまえすっごく可愛い……」

 兄はぐったりしている私の肩に顔を埋め、強く抱きしめた。その掠れた声にさえ、私は再び欲情した。

 バスタブの縁を指が食い込みそうなほど掴んで、前後に揺れる体を必死で支える。

 隆兄と私は繋がっている。後ろから、貫かれている。私の嬌声が蒸れたバスルームにひときわ大きく響き、兄が私のお尻に射精するにさほど時間はかからなかった。

「悪い、今出しておかないと、次が持たないからさ……」

 隆兄はそう言い、彼の首にぶら下がるようにかろうじて立つ私に熱いシャワーをかけて、体からぬめる残滓を流した。幼い妹の世話をするそのもので体から水気を拭うと、バスタオルで私を包んで抱えてベッドに運んだ。首に腕を回したままの私と一緒に横たわる。

 髪を解き、キスを唇に、首に肩に胸に浴びせながらバスタオルを払い、体を撫で回す。侑兄の、私の性感帯を知り尽くした洗練された手つきではなく、肌を闇雲に徘徊し、回り道をするような無骨な愛撫はもどかしくて、体が疼いた。そして逆に焦らされているようで、相手が普段と違うことに念をおされているようでもあった。

「肩も、胸も、腹も、尻も太腿も、どこもかしこも柔らかい。女子大生ってこんなに柔らかいのか?」

「し、知らないよ……隆兄の彼女だって、女子大生だったでしょ」

 枕元の丸いランプのおぼろげな光の中で、兄の夢見るような目が光った。

「そんときは俺も盛ってたからなあ……堪能する余裕は持ち合わせてなかった」

 正直、おまえに何度か眩むことがあって。

 家に戻る度に、それはなんだろうと思っていた。

 男を誘うのはその長い髪でもなく、薄い肩でもなく、細い腰でもなくて。目だ。涼しげに見えるおまえの目には実は危うさがあって。

 禁忌を犯しているからストイックで。でもその禁忌にめちゃくちゃ貪欲で。それが熱くちらついている。隠そうとしても、情念は燃えていて。

 男はそれが何かと、おまえから全て暴きたくなる。そういう危うさが俺を、男を捕えるんだよ。

 それでも、ほとんどの男がその正体がわからないまま戸惑い、踏み込めずに舌打ちしながら素通りしていくんだろうけど。

 そんなことを低い声で呟き、上から覗き込んでいる彼の胸に両手を添える。

 手の下の、厚い胸。歯を立てたらしっかりとした弾力で押し返されそうな。急に喉の渇きを覚える。——早く、潤して欲しい。

 どうやって自分の気持ちを言葉にすればいいかわからないから、ただ、見つめ返す。兄が頷いたように見えた。もしかしたら単に滲んだ視界で揺れて見えたのかも。セックスをすると涙腺が緩くなる。とにかく彼がおもむろに体を下にずらすから、両手はぱさりとシーツの上に落ちた。

「おむつを替えていたときと違う……」

「やだ、当たり前でしょ……、や、引っ張らないでそんなとこ……! やめて……」

 恥丘の毛をちくちくと引っ張る兄を睨んだ。いくら処理していても、さすがに恥ずかしくて顔がほてる。

「やめられるわけねーだろ。こんなの見せられて。あー、もう、俺が洗ってやったのに比和ちゃんまた濡らしてる。綺麗にしてやるな」

 がっしりとした腕を腿に回して、顔を埋める。

「んぁ……っ」 

 肉厚の舌が襞を割ってゆっくり掻き回し始めた。たまに思い出したように芯に舌を這わす。

 その度に、びくんって腰が跳ねる。くちゅくちゅくちゅ……音が立つほど溢れている。溢れるほどにその戯れが嬉しい。

「あっ……あ、あっ、あっ……」

「比和、おまえも勃ってるぞ」

「やぁ……」

 わかってる。さっきから兄が指でそれをかすめると、ぴりぴりって痺れちゃうもの。 

「もっと、して……」

 うん、と彼の声が陰唇に震えた。

 彼が指の腹で円を描くように転がし始めると、ダイレクトに子宮の奥にうねりが伝わる。

 時間をかけて転がされ、小刻みに揺らされ、しごかれると腰の辺りにむず痒いような、くすぐったいような波が立つ。

「あっ……あっ…………いい……っはん……ンっ……はん……」

 私は鼻の奥で鳴きながら、自分の髪に手を差し入れ、まさぐる。

 そうでもしていないと、すぐにでも意識が飛びそうだった。恍惚に身を溶かされていた。腿をすり合わせようとすると、逆に大きく開かれ、陰核を強く吸われた。全身が、稲妻に射抜かれた。

「っ……はぁあああん!」

 乱れた息を整えながら瞼を薄く開けると、涙で滲む視界に兄の背中。肩甲骨の上を覆う筋肉の隆起。私にかしずく黒豹はまだ名残惜しそうに顎を動かして私の体液をゆっくり嘗めとっている。手懐づけたと思っていたそれは、突然牙を剝く。

「乗って。おまえが俺を共犯にしたいなら、ちゃんと満足させろよ」

 彼は私の横に来て仰向けになった。

「隆兄……」

 今度は私が体をずらし、屹立しているものを掴んでそれに視線を注いだ。

「なんだよ、侑のと比べてるのか」

 私が凝視しているものだから、彼は顔を上げた。

「ううん……なんか、すごく雄々しいな、って。侑兄のより太いし……使い込んでるっていうか、すごく硬い……もう、出てきてるよ……」

 私は人差し指をくるりと回して、先っぽの割れ目から滲んでいる液を広げた。

 びくん、と浅黒いそれ全体が身震いした。一度繋がってしまうと、恥ずかしい反面、妙な開放感があった。

 隆兄にはそういうところがある。

 全て真剣に捉え、また、小さなことに拘泥しない性格は、条理がかなえば罪も正統なものに見せてしまうような。だから、兄を共犯に出来ると括ったのかもしれない。

「分析はいいよ、焦らすなよ。あ、ゴム着けられるか?」

 私は片手で強張りを握ったまま、片手は兄の肩を抑えるように前のめりになりながら腰を沈めた。乳房は兄の顔の上で揺れる。

 そんな自分の格好に体の熱を上げながら唇を噛む。くちっ、と襞が開かれる。中が押し開かれて根元までぎっちりと埋まると、その先に約束されているものが早く欲しくて堪らず、お尻を浮かせた。

 また、ゆっくりと沈ませる。ぐじゅぐじゅと音が体に絡み付く。官能というろうそくの炎が目の奥で妖しく揺れる。

 もう……きもちいい。目をつむって体を揺らしながら、うっとりと愉悦に浸っていると、兄が乳房を押し上げながら言った。

「比和、そうじゃなくて、後ろに反って。手を俺の膝の上のほうで支えてさ、腿の上に座る感じで膝立てて」

 体の上でぎこちなく言われたとおりの体勢にすると、ものすごく卑猥なものだと気がつき慌てる。彼の体の上で、M字開脚。

 あられも無い部分を晒している。

「隆兄……これ、やだ……全部、見えちゃう……」

「見えるからいいんだよ。ほら、動けよ」

 兄は突き上げた。ずりゅと中が擦られ、お尻の穴がきゅっと締まる。

「う……そんなに締めるな」

「や……ちがう…………だめ、見ないで……」

「比和、がっつりしゃぶりついてるぞ。すげ、卑猥。興奮する」

 あ……、なんか、もう、やだ。こんなの。

 そう思っても隆兄のじっとりと焼け付くような視線を意識し始めたが最後、羞恥はそこからじわじわと燃え広がって快感の炎を煽る。お尻を盛んに上下させ、自分で『いいところ』に擦り付けて。引っ掛けて。

 でも、ちがうの……ちがう……きもちいいけど…………

「これ……だめ。これじゃ、やだ……」

 一人遊びみたいで、いやだ。

「だいてよぉ……」

 自分の声は思ったよりも情けなかった。

 おまえには敵わないよ。——隆兄は体を起こした。私の背に逞しい腕を回し、しっかりと抱きしめてくれる。彼の高めの体温に安堵する。

 立てていた膝を落として彼の脚を跨ぎ、体重を預ける。ぐっと深く繋がる。

「ん……たかにいが奥に当たる………」

「俺を、イカせて。おまえが動いてイカせて」

 隆兄の頭を胸に抱いて。自由に私は腰を振る。

 私の中の隆兄はいつも大人だった。

 双子のずっと向こうに立っていて。

 でも、助けを呼べばすぐに飛んで来てくれて。呼んでなくても来てくれて。

 小学校二年だった。秋の運動会。五十メートル徒競走。五人横に並んでよーいドン。私は走るのが好きだったから、勢いよく飛び出した。でも、走ってすぐにつまづいて、すっごく恥ずかしくて起き上がれなかった。『ひわちゃんがんばれ!』父兄席から、先生や、友達の声が張れば張るだけ心は縮こまって、顔を地面に付けたまま地面の石と一緒にうずくまっていた。

 膝がじんじんしていた。その時、体がふっと宙に浮いて。隆兄が私を抱えて走っていた。

今まで出て来なかった涙が、隆兄の揺れる胸の中で堰を切ったように溢れた。膝が痛かったからじゃない。

 嬉しかったのに、どうしてか『わーーん』って。

 白いテントの下で、兄は消毒薬と脱脂綿を借りて、自ら絆創膏を貼ってくれた。まだしゃくり上げる私の前にしゃがみ込んだ兄は笑って言ったっけ。

『比和、びりっけつだったなー。でも、俺も一緒にびりっけつだった』

 そのあと手を引いて、私の組に連れて行ってくれたんだ。

 記憶の中の繊細な少年はいつの間にか、男になっていた。

 膝の上に乗っていた少女は、女になって体を餌に政略しようとしている。

「腰回すように……おまえ、なんにも知らないんだな……」

 そう言う兄だって呼吸を乱して苦しそうに眉を寄せている。

 繋がっている根元から、恥骨を兄に押し付けるようにぐるりと腰を回すと、芯と、奥の当たるところから温みをもった桃色の風が螺旋状に吹き上がる。

 濡れそぼったお互いの陰毛が陰部の間で肌をざらりと擦った。奥がぐるりと掻き回されて、目の奥も揺らぐ。

 何度かグラインドを続けていると、隆兄が腰を掴んでリズミカルに突き上げ始めた。それは段々と激しく、速くなる。兄の肩にしっかり手をかけ、頭を反らせると、顔の前の乳首に兄はむしゃぶりついた。

「あぁあん! っああ……たかにい…………いいっ……いっぱい、入ってる……んはぁ…………っ」

「おまえも……比和、吸い付いて……っ」

 溶けているのは私か、兄かわからない。ぐちゃぐちゃになって。でも、芯はそこにあって。太い杭が一本穿たれて。隆兄も嬉しいよね、隆兄の、こんなに熱くなってる……。

私の中で張りつめて、ごりごり擦ってる。

 もう、私を抱っこして走れないと思うけど、こうやって強く抱きしめてくれて。いっぱい揺らして、突き上げて。一緒にいける。同じところへ一緒に。ほら、もうすぐ……。

「俺とおまえはどちらかというと父親似だからな。性格もさ、けっこうあっさりしているだろ。諦めが早いと言うか。双子はねちっこいところあるけど。良く言って情に厚い?」

 二人で凄まじい絶頂に達したあと、並んで寝そべった兄は、私の手を握ったまま自分の胸の上に置いた。

 汗はすっかり引いて、さらりとしていた。

「俺、おまえによく絵本読んでやったよな……あ、俺なんか今、懐古主義派?」

「”派”って何よ……うん、私もさっきそれ思い出したの」

 兄は呆れたように私を見た。

「やってる最中にか。あれだけ声上げて、腰振ってたくせに余裕だな……そうそう、おまえ『ジェインの毛布』が好きだったよなあ。このピンクの布団みて思い出したけど。あれ始めて読んだ後、おまえも『ピンクの毛布ほしい』って聞かなくて、結局母さんがピンクのタオルケット買って来て満足してたよな」

「あれ、そうだっけ」

「そうだっけ、じゃねーよ。あの時さんざん騒いでおいて」

 隆兄は私の人差し指を軽く噛んだ。

 あれ。そう言われれば、持っていた気もする。ピンクのタオルケット。でも、どこに行ったんだっけ。

 ん? なんか大事なこと、忘れている気がする。

「ごめん、痛かったか?」

 急に黙った私に彼は不安な表情を見せた。

「う、ううん。あ、ねえ、ホントに兄弟になっちゃったね。隆兄と侑兄。あ、私の言ってる兄弟っていうのは正確には、あ……」

「だーっ! 言うな、その先言うな!!」

 隆兄は本気で私の口を塞ごうとのしかかって来るから、笑って身を翻した。

「ねえ、隆兄が侑兄と仁兄に性の手ほどきしたんでしょ。侑兄言ってたよ」

「くそ……己の放った矢が己に刺さった……」

 どさり、と勢い良く彼は再び仰向けに転がった。そして意味ありげな横目で私を見る。

「あのさぁ、仁、おまえと侑のこと知ってるのか?」

「ううん」

 嘘。でも隆兄の口調は仁が知らないことを祈るようなそれだったから、そう答えずにはいられなかった。

「仁には、絶対にバレないようにしろよな。あいつ、すごく傷つくから」

 なんで、とは聞かなかった。

 仁が家を出てった理由がいま、初めて身の隅々にしみた。それは、ずっとぶれていたファインダー上のモチーフのピントがピタリと合った瞬間。

 体の熱が一気に冷めた。思わず隆兄に体を寄せた。彼の体はまだ熱い。頭を抱き寄せられる。

「ずるい女にしたのは俺だな。悪い。これっきり。これっきりだから」

 まるで自分に言い聞かせるように、隆兄は呟いた。

「ううん。こうなったのは、侑兄が悪い。でも……好きなの」

「体張るくらいか……あのさ、俺、彼女と婚約するんだ」

「そう」

 上の空で彼の言葉を聞いていた。

 隆兄の言葉は屍になってラブホの天井に吸い込まれていった。

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