思春期 1

 抜き打ちで仕事場に侑が迎えに来る。

 でも、来る日はなんとなくわかる。今日もね、ほら、スーツ姿で、モレスキンのトートを肩にふらりと閉店間際のショップに現れる。

 店長に礼儀と愛想の絶妙なバランスの挨拶をして。

『じゃあ、あとでね』

 仕事の邪魔にならないように私に軽く手を振って、彼は待ち合わせのカフェに向かう。私はビルの閉館後、兄を褒めちぎる店長の言葉に見送られて、その人のもとへ急ぐ。

 今日は釜飯の美味しいお店で夕食を済ませて、ホテル。

 行く道で指を絡めて手を握られると、目元に熱が浮かぶ。

 すっかり生活の一部になった行為なのに、禁断の木の実を食べる時にはその都度、淡い興奮を覚える。

「仁、見合いするかも。っていうか、結婚するかもね」

「え!?」

 一度達して朦朧としていた私は、その言葉に一気に覚醒し、侑兄の裸の胸から顔を上げた。

 兄は横目を流し、さもおかしそうに口を歪める。

「今、T大学病院の春川教授の家、着工始まったんだけど。この前地鎮祭でさ。比和、見送ってくれただろ」

「うん」

 あの日はビル全館休館日で休みだった。

「侑兄も仁兄も二人同じようなスーツ着て、紛らわしいって言ったのにそのまま出かけたんだよね」

「そこがポイントなんだけど。嘘みたいなほんとの話、その地鎮祭で僕たちのどっちか知らないけど、教授のお嬢さんが気に入ったらしくて。今度父さんと、僕たちで教授親子に食事に誘われているんだよね。少し前から軽く打診はされていたんだけど。彼女はいるのかとか、休日は何してるとか。でも誘われたのは今回初めて。ようは顔合わせだよな」

「へー、でも、それ、侑兄のことかもしれないじゃない。なんで仁兄が結婚、ってなるの? そのお嬢さんって何やっている人? 幾つ? 綺麗? 可愛い?」

 地鎮祭でロマンス、という組み合わせの意外さにやや驚きはしたものの、話自体がなんだか現実味に欠けている気もした。

 まさかそれで仁が結婚するとは考えられない。

 それでも一応、どんな相手か興味はある。

「歳は二十九。写真見たけど、穏やかな感じの人だったなあ。でもさ、彼女、精神科医なんだよ。な、仁にぴったりじゃないか」

「ぴったりって……精神科医だから? それだけで? 侑兄その言い方ないよ。仁兄、ずっと落ち着いてきてるよ。良くなってるし。……それにまだ結婚なんか早いって嫌がるよ」

 侑兄は熱くなりかけた私に冷めた声色で言った。

「別に今すぐどうの、っていう話じゃないさ。もちろん一、二年お付き合いして、ってことだろ。そしたら適齢期って言われてもおかしくない。それに、うちにとっても悪い話じゃない。今、家建てるの厳しいからさ、うちもキツいんだ。そこで春川教授みたいに金持ちの知り合いが多いとお客さん紹介してくれるんだよね。実際次の美浜クリニックのリフォームの話も教授から貰ったし。仁も比和のことが好きらしいけど。あいつはダメだ。弱すぎる。あいつは尻尾を巻いて逃げた男だからね」

 侑兄は意味深に話を切った。

 侑兄が一体何の話をしているのか。何を話そうとしているのか。

 背筋が寒くなった。

『仁も比和のことが好きらしいけど』

 どうして? どうして急にそんなこと?

「大学始まってから仁が急に家を出た原因って、あれ、比和となにかあったからだろ。いや、無かったからか。僕の留守中、あいつ、比和のここにキスマークつけたんだよね」

 彼は私のうなじの、耳の付け根にそっと触れた。——知らなかった。あのとき仁兄がそんなことしてたなんて。

「あれが何のつもりだったのか僕、未だに理解できてないんだけど。一種の衝動かな……。仁にバレたんでしょ、僕たちのこと。あいつが比和をめぐって僕に挑んでくるかと思ったけど、何も起こらなかった。何も見なかった振りをして逃げて行ったからね。まあ、あいつは頭がいいからきっと、比和が僕と一緒になった方が幸せだって察したんだろう。だから、今回も比和のために喜んで犠牲になると思うよ。それが仁の役目なんだ。それにあの不覊な弟は、誰からも好かれるからね。バイトの女の子たちともたまに飲みに行ってるみたいだし、客先の奥樣方にも人気あるみたいだし。僕とは違ってやさしいからな」

 仁、モテるんだ……、そんなモテるモテないなんて話、学生時代だけかと思った。なんだか、いい気持ちはしなかった。

「侑兄だってやさしいじゃない」

 彼はさもおかしそうに目だけで笑った。本気で言ってるの? そう語っている気がした。

「僕が優しく出来るのは比和一人だけだよ。ま、……仁の話なんかどうでもいいよな」

 彼はいきなり体を起こすと後ろへ回り、私の腰を引き上げて、いつの間にか蘇生した彼のものをずぷりとねじ込んだ。

 そこは二人の名残で十分にぬかるんでいたけれど、その手荒で性急な行為に思わず体が逃げた。

 侑兄はそんな私に背中から体ごと覆い被さると、手首を上から掴んでベッドに縫い付ける。繋がりがぐっと深くなり、奥が苦しい。

 胸も苦しい。

 最近、私は侑の前で言葉をのむことが多くなった。

 七つも年上の、私から見てずっと大人の隆兄が結婚したことは、とても自然に受け入れられた。 

 そして今年に入って既に友達の披露宴に一度、二次会のパーティーにも一度出席したけれど、実際「結婚」なんていうもの自体、私にとって馴染みの薄い作家のペンギンブックスのようなもので、興味はあっても読むのはいつかそのうち、と本棚にあるそれをたまに横目でちらちら眺める程度の存在だったのに。 

 それが、身内に。

 それも仁に。

 さすがにそろそろ、と、その原書のペーパーバックを手にしたがいいけど、今読むべきかまだ躊躇している——そんな気分だった。

「京都一人旅とかどう思う? 比和ちゃん」

 クレジットカード決済の伝票を整理しながら店長は突然私に話を振った。

「いいですねえ。京都は中学の修学旅行で行ったきりです。まとまったお休みがあるとつい海外に行っちゃいますね」

「まあ、国内はいつでも行けるような気がするもんね」

「行かれるんですか? 彼氏とお二人で?」

 私はレジのショウケースからシルバーのアクセサリーを取り出し、バングルを磨きながら相づちをうつ。

「ううん、展示会の案内が来ているんだけどー」

 店長はレジ下の引き出しからDMをいくつか出した。

「行くつもりは無かったんだけど、この京都の展示会がやっぱり気になってて。どう? 比和ちゃん行って来ない? 急で悪いんだけど。ほら、十二月入って新年のセール終わるまでスッゴク忙しくなるからその前に」

 艶めくネイルの指に差し出された封筒の中身を出すと、一面トリコロールの縞模様が刷られた細長いカード。アパレル関係者のみ入場可、というのも魅力だが、仕事で初めての出張となるとそれだけでテンションが上がった。

「いいんですか!?」

「いいわよ。あらかじめ気になるブランドは教えておくけど、あとは比和ちゃんがいいと思ったところをチェックしてもらって……来週の月曜と火曜の二日間。あ、丁度水曜休みじゃない。観光してくれば? シフトはさつきちゃんに出てもらえばいいし」

「うわー、すごく嬉しいです。ああ、家に帰ったらネットでいろいろお店チェックしちゃおう」

「こらこら、仕事仕事。ま、お土産期待してるわね。ああ、村上開新堂のみかんゼリーは十二月かあ……残念」

 それから接客の合間に京都の話で盛り上がっているうちに、二時のお昼休憩の時間になった。

 ——休憩になったら電話して。

 休憩に入って、フロアを徘徊するお客様の間を縫いながら携帯をチェックすると、仁兄からメールが来ていて少し驚いた。外に出てコートの襟を合わせながら、仁に電話をした。

 ショップの入っている隣のビルにあるカフェを指定され、自動ドアを一歩踏み込む。

 暖房の温かい空気にほわんと充満するコーヒーの香りと人々の会話のざわめきが私を迎え入れる。

 カウンター脇で軽く視線を巡らせると、奥の窓際に仁を見つけた。

 土曜の昼下がりの、程よく混んだ店内を人を交わしながら彼の席まで辿り着いた。

「今おまえが入って来ただけで最低でも三組のカップルが別れの危機を迎えた」

 脱いだコートとショルダーバッグを椅子に置きながら彼の向かいの椅子を引いた。

 テーブルの上には飲みかけのコーヒーの白いカップと、厚みのある本が乗っている。ブックセンターの袋が脇にきちんと畳んである。

「は? 何言ってるの?」

「男たちがおまえのこと目で追ってたよ。彼女が目の前に座ってるのにさ。おまえ、目立つよ」

「まあ、一応いとへん業界で働いてる身ですからねえ……身繕いには隙がないかな……って、急にどうしたの? 珍しいじゃない。本、買ったんだ」

 真面目顔の仁のそんな言葉に、密かに照れて語尾をにごしながら、話題を変える。

「そういうこと、言ってるんじゃないんだけど」

 仁はなぜか引き下がらなかった。少し身を反るように座り、テーブルの上に投げ出した右手で本の角を指でなぞっていても瞳は私をしっかりと捕えている。私は誤摩化しが通用しなかった居心地の悪さに、彼の視線から逃れるように店内に視線を泳がせた。

「ここ、お母さんのライバル会社。こんなところでお茶するな、ってお母さん、怒ってるかも」

 兄は大きくため息をついた。なんだか、今日の彼はいつもと違う。

「そんなことで怒る人じゃないでしょ。何飲む? メシ喰った? 買ってきてやるよ」

「え、自分で行くよ」

「いいから。おまえただでさえ立ち仕事なのに。座ってろ」

「うわ、無駄に優しくしてもなにもでないからね」

「期待してねえ。早くしろ」

 そこまで言うならと、カフェラテとミラノサンドとミルクレープを頼む。

『そっちこそ、カップルの別れの危機誘発してるんですけど』と、女子たちの視線の先が兄の背中に流れるのを見ながら心の中でこっそり呟く。

 サンドイッチを食べている間、仁に本の建築物を見せられ、解説を聞かされた。いつも素っ気ない仁が自分の得意分野ではきちんと丁寧に話してくれる。始めて気がつくそんなギャップ。お腹が満足になって、カフェラテを飲んでいると、彼は本を閉じながら切り出した。

「あのさ、センセーがおまえと話をしたいんだって」

「センセー?」

「精神科の」

「私と?」

「何度も言わせんな」

 あ、その突き放すような口調。仁、健在。

 ぞんざいな扱いをされても、なんだかほっとする。

「何度って、二度も言って無いじゃない……いいけど、なんだろ」

「さあ。とにかくおまえ今度いつ休み」

 私は携帯を出してスケジュールを確認した。

「来週の水曜」

「じゃあ、オレからセンセーに言っておく。決まったら知らせるわ」

 カツーン、と小さく、でも鋭い音が近くでした。顔をそちらに向けると、三人の若い女性の脇に、四、五歳くらいの男の子が一人座っていた。

 音は、おもちゃの消防車が床に落ちたものだった。

 彼はテーブルの下に潜り込んでそれを拾った。たぶん、休日の午後、お茶をしに来たママ友の集まりに連れて来られたんだろう。

 話に夢中になっている母親の横でひとり、食べかけのマフィンのお皿を前に遊んでいた。私は再び仁に向き直り、聞く。

「それって、仁兄も同伴?」

「いや、おまえだけらしいよ」

「ふうん。あ、私ね、月曜、火曜と京都なんだーー。展示会に視察。水曜日の約束が無かったらもう一日のんびり観光出来たのにー」

「十一月でも京都って寒いんじゃないの。大学のとき女と行ったけど、二月だったかな。めちゃ寒くて、でも相手は嵐山に行って湯豆腐喰うとか言ってさ、行ったはいいけど雪が半端なく降って来て参った。湯豆腐喰って生き返ったのは覚えてるけど、味とか別に、って感じだったかな。それよりもあとで腹減って女を部屋に残して喰いに行ったココ壱のカツカレーがめちゃうまかったのは記憶に鮮明だ」

「へー、彼女をひとりぼっちにするって、仁兄最低。でも彼女いたんだ。初耳」

「そりゃ、それなりに。高校の時もいたの知ってるだろ」

 ……大学時代の仁に彼女。

 私の知らない仁の。なーんか、つまんない。まあ、彼ならいたっておかしくはないけど。

 カツーン。プラスチックが床の上でたてる音は意外と耳に痛い。

 ……カツーン。

 尖った感情が私の視線を再び彼のほうに向けさせた。

 注視していると男の子はわざと勢いをつけて車を走らせ、落下させているように見えた。「うるさいわよ」母親が彼を覗き込むように言い、友達とおしゃべりを再開させる。

 カツーン。

「もう、いい加減にしなさい!」

 母親は、拾ったばかりの消防車を男の子の手から取りあげた。彼は一瞬ほうけた顔をし、のろのろとマフィンをちぎって食べ始めた。

 ああ、そうか。彼は母親の気を惹きたくて、わざとおもちゃを床に落としていたんだ……。

 怒られてもいいから、自分へ注意を促したい。『僕だってここにいるんだよ。ママ、忘れないで』そんな彼の声が聞こえてきそうだった。

 そんな彼に、いじらしささえ感じた。

 ママは彼にとって唯一無二の存在。ママにとっても彼は唯一無二の存在。

「子供、欲しいな……」

 思わず呟いていた。

 体を椅子にゆったりと預けた仁の視線も子供に向いていた。

「いいんじゃない」

 思わず仁の顔をまじまじと見てしまった。彼なら「子供? 面倒くさい」なんて言い兼ねないと思ったから。そんな私と目を合わせた彼はしれっとした顔で言う。

「いいヤツ見つけて、結婚しなさいよ」

「な、なによ。そんな時ばっかり兄貴面して……順番から言ったら侑か仁じゃない」

「こんなオレでももらってくれる人いるかしら」

 薄く笑いながらの言葉は、冗談か本気か見抜けない。

「仁兄はモテるでしょ。自由人に見えて実は我慢の子だから、そういうの、ちゃんとした女の人はキャッチするよ」

「ひとつだけ我慢できれば、それ以外は何をしても、どうでもいい。我慢出来るってことはある意味自由が利くんだよ。わかってないな、おまえ」

「なにそれ……? 哲学?」

 兄の意図するものがわからず、笑って誤摩化そうとしたけれど、うまくいかなかった。

 仁もすでに笑っていない。

「まあ、でももう我慢しないし。我慢はしないようにってセンセーにも言われたしな。……この前さ、オレ意識飛ばすまで飲んだ」

「知ってるよ」

「着替え、サンキュ。あの日さー、侑に、『客先で縁談持ってきてる人がいるから結婚しろ』って言われて。オヤジはさ、やっぱ長男である侑に期待してるんだけど。で、『ふざけんな』って言ったら『僕が結婚したら比和が悲しむだろ』って言いやがった。そんでまあ、一人飲み屋でヤケ酒」

 何も言えなかった。

 そこでどうして仁がヤケ酒をするハメになったのか彼は明かさなかったけど、言葉にされなかった分、彼の真剣な眼差しが私の胸にその言葉を吹き込んだ。『比和が悲しむくらいなら、オレが犠牲になるほか無いだろう?』 

 きっと、そんなところ……。

「今おまえ『子供欲しい』って言ったよな。それって、侑の子供が欲しいとかそういうこと? ああ、もうオレに隠す必要ないから。侑だってオレに余計なことは言わんが、ムキになって隠そうともしてないから。おまえにベタ惚れだってこと。っていうか相思相愛?」

 勝負に出ているのだろうか。

 正面から切り込まれて私は一瞬言葉に詰まったけど、「ちがう。侑兄の子供ってわけじゃない」はっきりと声に出た。

 あまりの語気の強さに自分で驚いた。兄の表情が険しくなった。

「まあ、それはいいけどさ。オレ、結婚しないから。そいつとは。侑も断りたければ断ればいいと思ってる。ただ、あいつが結婚しようがしまいが侑はオヤジの後を継ぐんだろうが。さっきも言ったけどオヤジも侑に期待している。おまえがあいつと一緒になるってことは、侑の将来がどうの、っていうよりオヤジを裏切ることになるんじゃないの? 侑と一緒になるってことはオヤジにも全て打ち明ける覚悟なんだろ? 侑はそのつもりだと思うぜ? でもさ、母さんが死んでからオレたちは社会人になってなんとかやってるけど、結局オヤジにこうしてでかくなるまで育ててもらった恩とかあるだろ? 家庭を持ったおまえが旦那と一緒に子供抱いているのをオヤジは母さんの遺影に見せたいんじゃないの? 一人でも娘をここまでちゃんと育てたって、胸張りたいんじゃないの? 最初はどうせ侑にそそのかされたんだろ。でも、もうおまえは子供じゃない。ちゃんと考えて、自分で選べるはずだ」

 早口でそれだけ言い切ると仁は、はっと我に返り、取り繕うようにすっかり冷えたコーヒーに手を伸ばした。

 言われたことがあまりにも筋が通っていたから、というよりも溢れ出した感情をそのまま口に出す彼を目の当たりにした動揺で、私は言葉を失ってしまった。

「……ごめん、オレがどうとか言えないよな。おまえの決める人生なのに」

 穏やかな口調だった。

「ううん、まっとうなご意見です。ごめん。いろいろ甘え過ぎてました」

 そう。ありとあらゆる場面で私はありとあらゆる人に甘えて来た。

 そのことを仁兄に明確に指摘されると、とても居たたまれなくなり、目を伏せた。

「いや、まあ、おまえにはつい甘くなる、っていうのも事実だったわけだし……」

「ううん。仁兄の言う通り、これからちゃんとします……あ、そろそろ行かなきゃ」 

 携帯の時計は休憩時間のわずかな残りを告げていた。財布を出すと彼はすかさず言った。

「妹に払わせるわけないだろ、バカ」

 自立しているところを見せたかったのに、頭ごなしにバカと言われると毎度のことながらムッとくる。

「甘えるわけにはいきません」

「やっぱり全然わかってないよ、おまえ。いいからそれ仕舞え」

 兄はシッシッと邪険に手で宙を払った。

「じゃあ、ごちそうになります」

 私は頭を下げて、財布を仕舞った。

「それでよし。あ、夕メシ何喰いたい? このあと買い物に行くからさ」

「えー、美味しいものなら何でも」

「そういうのが一番困るんですよ、奥さん。じゃあ、カレーにしよう」

「え……もしかしてココ壱でインスピレーション湧いたとか? やだ。そんな彼女の思い出京都旅情編カレーなんて」

 思わず声が高くなっていた。

「なに、ムキになってんの」

「なってないよ。もう、行かなきゃ。ほんと、カレーは嫌だからね」

 結局その日の夕食はロールキャベツだった。

 ローレルがふわりと香るスープと一緒に食べながら、やっぱり私は甘やかされていると思った。

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