鬼より強い桃太郎(性的な意味で)

桃太郎の幼馴染の千夏は、彼に淡い恋心を抱きつつも、普段から女癖の悪い彼に辟易している。さらに、彼が鬼退治に行かないと言い放った日には、千夏の堪忍袋の緒も切れ、彼女は一人鬼ヶ島に向かう。

「モモっ!! 桃太郎っ!! あんたいつまでそんなところで乳くり合ってるつもりなのっ!!」
 千夏(ちなつ)が勢いよく古い薪小屋の戸を開けると、きゃあ、と一糸まとわぬ娘の背中が桃太郎の上で跳ねた。娘はそそくさと落ちていた着物を羽織り、前だけ合わせると顔を隠すようにして出て行った。
「おう、千夏。どうしてわかった?」
 まだ情欲さめやらぬ剛の者の瞳が薄暗い小屋の中できらりと光った。千夏と呼ばれた村娘は鼻息荒く続けた。
「わかったも何も! ウチの畑の裏にあんたんちの薪小屋があるんだから、作業してればわかるっつーの!! どんだけやってるつもりなのよ! あんたも少しは畑仕事したら!? 荒れ放題じゃない!!」
「えー、おまえやっといて」
 むくりと桃太郎は体を起こした。しなやかな筋肉を纏った体躯が目の前に露になると、千夏は頬を染め、彼を睨んでいた視線を逸らせた。
「なんだ、男の裸が恥ずかしいか。そうか、まだおまえは『しるし』、も来てないもんな」
 腰の帯を締めながら、桃太郎は美しい顔をほころばせた。
「なによ、『おしるし』くらいとっくに来たよ。もう十五だもん」
 彼はそれには返事もせずに、無造作に顔にかかった前髪をかき上げ、もう一方の手でひょいと千夏の細い腰に手を絡めるとそのまま担ぎ上げてしまう。ぐんと地面が遠くなる。
「ややや! 下ろせ!! 下ろせったら!」
 がっしりと俵担ぎにされ、脚をばたつかせるも桃太郎の腕の力は緩まない。
「あー、一仕事したら腹減った。千夏、うちに来て飯作れ」
「ばーちゃんに作ってもらったらいいじゃんか!!」
「ばばぁの飯は、飽きた」
 ひ~と~さ~ら~い~
 千夏の声が辺りに響くも、村人は畑から顔を上げもしない。
 これがこの小さな村の日常だからだ。

 飯を食い終わった桃太郎はいろりの横でごろりと長くなっていた。
「……とうとう、隣村まで鬼が来たそうよ」
 千夏は鉄瓶から湯を茶碗に注ぎながらぽつりといった。
 ふん……
 格子の窓から入る光に目を細めながら桃太郎は鼻を鳴らした。
 桃から出て来た桃太郎。
 どこから来たのか、その出生を知るものは無い。ただこの辺りに見られないような突出した美貌は、成人するにつれ、村の女たちを瞬く間に魅了した。
 そして今、その繊細な顔の輪郭を、光がぼかしていた。
「じゃあオレもそろそろ……」
 その言葉に千夏は緊張で体を強張らせた。

 やっぱり彼は心を決めていたんだ……。

「逃げるか」
「ええええええええ!? そっち!?」
「だってさー、鬼だぜ? 鬼。オレ、無駄な争い嫌なんだよねー」
「そそそそ、そんなあんた! あんた桃から出て来て十七年。じーちゃんとばーちゃんにこんなにでかくなるまで育ててもらって、未だに養ってもらって、挙げ句あんたは畑の仕事をするどころか、毎日毎日村の女と交わってその日暮らし。そんな人生でいいと思ってるの?!」
「でも、女たちいろいろ貢いでくれるからなーー。米だって野菜だってさあ。食い物には困ってないぜ? あ、それともおまえ妬いてるの。おまえまだ男知らずだろう。いいよ、オレがおまえの初めてになってやっても。オレ、うまいぜ? まあ、毎日あんだけ女が通ってくるの見てればわかると思うけど」
「ななななななんでそうなるの!! それにそういうのはこっそりやってよ、こっそり! 大体あたしは強くて甲斐性のある男が好きなんだ!! あんたみたいに一日中ふらふら、ごろごろ、いちゃいちゃしている男は問 題 外!!」
「千夏、ちょっと来い」
 顔だけ自分の方に向けたその眼差しは、どこか有無を言わさぬものがあった。

 なによ……言い過ぎってことはないよね……いつも言ってる事なんだから……。

 千夏はその眼力に及び腰になった。

 昔からそうだった。千夏はこの目に弱い。
 千夏はこの村ではしっかり者で通っている。親を手伝い、勤勉で、親切、そして大きな瞳が愛くるしい娘だ。己に厳しく、他人にも厳しい。
 しかし、無為徒食三昧の桃太郎のどんな理不尽な屁理屈や我がままを結局、最後には許してしまう。というより、言いなりになってしまう。

「な、なによ」
 いろりを回って、寝そべっている彼の横に膝をつく。
「千夏、おまえ……」
 彼はなぜ、そんなに慈しむような瞳で自分を見るのか。一変した彼の絡み付く視線に戸惑う。
 下から伸びて来た彼の大きな手は千夏のみずみずしい頬を包んだ。二、三度愛でるように撫でると、手はゆっくりと下りて行き、着物の荒い生地越しに膨らみかけた未熟な果実を鷲掴んだ。
「きゃああああああっ!!」
 千夏はその強い刺激に飛び退いた。
「くくくくっ! おまえ、ちゃんと飯喰えよ。じゃないと付くところにも付かねーからな」
「馬鹿! あんたなんか鬼に喰われちまえばいいのよ!」
「千夏」
 警戒し、距離を置く千夏に桃太郎は低い声で呼びかけた。顔からは笑みが消えていた。
「な、なによ」
「オレは大人しく鬼に喰われるタマじゃねえ。知ってるだろ、オレがどんだけ強いか」
 ぐっ、と千夏の喉が鳴った。
 彼の言う通りだった。ここら一帯の村では刀でも組手でも桃太郎に敵う者は無かった。
「オレは強い。でもその力はオレの大切なもんを守る時にだけしか使わねえ」
「じゃあ、じーちゃんばーちゃんは、村の人は? 大切じゃないの?!」
「興味ねえ。おまえ、もう行け。オレ昼寝するから」
「興味ないって!? あんた、村の人たちがどうなってもいいの?! 鬼退治行かないの!?」
「鬼退治? なにそれ、喰えるの?」
「モモ……」
「黙れ。行け」
 それだけ言うと桃太郎はくるりと背を向けて寝息を立て始めた。
「……あんたなんかもう、知らない。見損なったよ」
 千夏は桃太郎の広い背中を睨んだ。鼻の奥がつーんとし、そして胸の奥から何かが込み上げてくるのを抑えながら立ちあがると、静かに家を出て行った。

 翌日、珍しく桃太郎が川から水を汲み、家の裏の瓶を満たしていると、畑の向こうから千夏の両親が血相を変えて駆けて来る。母親の方は乳飲み子を背負ったまま親父の後ろをやっとのことで付いて来るといった様子だ。
「桃太郎さん! 千夏が! こんなものを置いて千夏が!」
 肩で息をしながら親父は握りしめていた一枚の紙を桃太郎に差し出した。桃太郎は黙ってそれを広げた。

 鬼が島に行く。村のことはなんとかする。 ちなつ

 しっかりとした筆跡で、それは彼女の意志を伝えているようでもあった。

「へえ……あいつ、字が書けたんだ」
「そこに感心している場合じゃないです、桃太郎さん。朝起きたら千夏の布団は空っぽで……お願いです、あの子を連れ戻してください……桃太郎さんしか……」
 母親は涙声で桃太郎に訴えた。
「でも、オレには関係ねーし。千夏が行きたいから行くんだろ。ほら、この書き置きがそう言ってるじゃん」
「あの子はこの村を守るために……私たちのためになんとかしようと、それだけを考えてこんなことを! 好きで行ったわけじゃありません! あなたはそんなこともわからないのですか!!」
「ああ、わかんねーな。あんたたちもそんなに大事な娘なら柱に縛り付けておけばいいだろ」
「あなたと言う人は……」
 桃太郎の、同情のひとつも見えない、かえってその傲慢な態度に千夏の親父は色が変わる程に唇を噛んだ。
「なんか、見返りが無いとなあ……なあ、ただ働きって誰でもやりたくないだろ。千夏を連れてかえって来たら何くれる?」
 桃太郎を見る目を血走らせながら、親父は歯の隙間から言葉を押し出した。
「あなたの望むものを、わたしらの財産でも、なんでも差し上げますよ」
「言ったな。よし、刀を用意しろ」
 桃太郎は紙を丸めて地に捨て、家の中に入って行った。
 ばーちゃん、オレちょっと出掛けてくるわ。なんか喰うもん、無い?
 呑気な彼の声が聞こえて来た。

 もう何里歩いただろうか。
 千夏は陽が昇る前から歩き続け、やっと陽が高くなる頃、道ばたの草の上に座り込んだ。竹筒の水で喉を潤す。
 
 あんなにさっくりと切り捨てられるとは思わなかった……。

 桃太郎の言葉が蘇ると、悔しいようなそれでいて途方も無く深い悲しみが千夏の胸に渦巻いた。
 じーちゃんも、ばーちゃんも、村も……あたしも、モモにとってはなんでもなかったんだ。

 千夏は足下の青草をぶちぶち引き抜いた。
 鬼が島へ行く。
 そうは言ったものの、刀も槍も持てない自分に何か出来るとは思っていない。ただ、桃太郎の言葉が引き金となり、千夏を動かした。
 千夏は桃太郎の前から姿を消したかった。どうせ桃太郎に千夏の存在は無に等しいものなら、彼の気持ちを知った上で、今後毎日彼の姿を目にすることは千夏には酷なだけだった。

 でも、こんなに辛いとは思わなかったなあ……

 千夏は重い腰を上げた。
「千夏!」
 今思っていた男の声が聞こえる。千夏は振り返った。
 馬の蹄の音を豪快に響かせて近づいてくるのは、まさしく桃太郎だった。馬は鼻を膨らませながら荒い息をし、首には汗が白く吹き出ていた。
「こんなところでおまえは何やってるんだ!」
 口を開く前に桃太郎に一喝される。裸馬の背には普段の格好に刀一本だけ腰に差した桃太郎と、その背にしがみつくようにして村の童子が跨がっていた。
「モモには関係ない。お、おとっつあんとおっかさんにはもう、断り入れた……もん。あ、あんたこそここで何してるの」
「おまえを連れ戻しに来たに決まってる。その、おまえのとっつあんとおっかさんに頼まれて、だ」
 くっ、と千夏は桃太郎を睨んだ。
「あたしは帰らないよ」
「おまえ、鬼が島に何しに行くんだ?」
 馬の上から射るように見下ろされ、千夏は心が折れそうになるも、やっと言葉を紡ぎ出す。
「あたしを、煮るなり焼くなり好きにしてくださいって。なんでもやります、だから村だけは襲わないでくれって……話し合いに……」
 桃太郎は盛大なため息をついた。
「ほら、あたしの、今まで貯めた駄賃だって持ってきたんだもん。これも渡してさ……」
 千夏は小さな布袋を帯の下から出してみせる。
「……おまえなんか一口で喰われてクソになって出てくるのが関の山だ」
 ははは、ちなっちゃん、くそだって。
「八助! 黙れ!」
 千夏の迫力に気圧され、小僧は桃太郎の背に隠れた。そこで初めて気がついたように桃太郎は首をひねった。
「あぁ……、八助、おまえこの馬連れて村に帰れ。オレと千夏のことは心配するなと伝えておけ」
 桃太郎は馬から飛び降りた。八助は言われた通り馬の頭を今来た方へ向け、引き返して行った。

「な、なんで馬を帰しちゃうの?」
「なんとなく」
「あたしは行くって言ったら行くんだからねっ!」
「どうぞご勝手に」
 桃太郎に背を向け、千夏は歩き出す。じゃりじゃり、と小石を踏む音が背中から聞こえる。
「つ、付いて来るなよ!」
「オレもこっちに用があるんでなあ」
 空を見ながら彼は嘯く。
「勝手にしろ!」
 歩き出した千夏の数歩後を、桃太郎はのんびりと歩みを進めた。

 しばらく行くと、道ばたで白犬が昼寝をしていた。しかもただの犬じゃない。
 獣人……。
 雌のようで、体中白い毛で覆われた人型の胸はふっくらと膨らんでいる。ときおり、頭の上で耳をぱたぱたと動かしている。
 千夏は起こさぬようにそっとやり過ごす。獣人はずるがしこく、隙を見せれば物を盗むし、人も喰う。関わらなければそれまでだ。

「おい、起きろ、犬」
 
 えええ!?
 その言葉に驚き、千夏は振り向く。なんと自分の後ろを歩いていた桃太郎が、犬のシッポを踏んで起こしているではないか。
「ちょっと! 何やってんのよ!! せっかくやり過ごせたものを!」
「うるせー。おまえには関係ない。オレは、こいつに用があるんだ。ほら、起きろ」
 睡眠を邪魔された犬は、目を瞬かせると、前に立つ桃太郎にうぅと牙を剥いた。
「おまえさ、暇そうだから一緒に来い。ちょっと手がいるんだ」
「ふざけるな。誰が人の手助けなぞするものか」
「まあ、そういうな。腹減ってないか? きびだんごがある。くれてやるぞ。手を貸してくれたら後でもっといい思いができるぞ? 腹一杯喰えるし、宝だってある」
「ほんとか?」
 桃太郎の差し出す団子をひったくるようにして口の中へ入れ、犬は耳をピンと立てた。
「嘘は言わねえ」
「じゃあ、行く」
 千夏はその様子を離れた場所で呆れて見ていたが、自分には関係ないこと。彼女はきびすを返し、先を急いだ。
 その後も獣人である猿、キジに出会うと、桃太郎は犬と同じように交渉した。獣は全て雌であった。

 鬼が島があるといわれる湖に着く手前で、すっかり日が暮れてしまった。
 このまま野宿か、と思いながら歩いていると目の前にぽつぽつと人家の明かりが見えた。
 千夏は古びた家の戸を叩いた。
「旅のものだが、一晩寝かせてもらえないか」
 少女の声だからか、意外とすぐにがたぴしと戸は開けられ、皺だらけの老婆が顔を出した。
「おばば、寝るところが無くて困っている。一晩寝かせてくれまいか。礼はする」
 千夏は袋から銅貨一枚出して老婆に見せた。老婆はそれをがりっと噛んだ。本物だとわかると千夏を中へ顎で促した。
「おう、悪いな。オレたちもこいつの連れだから上がらせてもらうぞ」
 突然後ろから千夏を押しやって、桃太郎は土足で框を跨いだ。獣たちも彼にぞろぞろと続く。
「ちょちょちょっと!!」
 止める間もなく桃太郎はいろりの側にいた老婆と老翁をひと睨みした。
「今夜この家はオレたちが借りる。金はここにある。お前らは野宿でも、隣にでも行け」
 そう言い放ち、横にいた千夏の帯の奥に手を差し込み金の入った小袋を取り出すと、驚きで目を丸くしている二人の前に投げた。
「そ! それあたしの金!!」
 桃太郎は千夏をあっさり無視し、声を張った。
「早く行け!」
 この家の持ち主は闖入者の激しい剣幕に飛び上がり、転がるようにして出て行った。
「なんなのぉ……」
 肩を落とす千夏の様子は全く眼中になく、桃太郎はさっそく、いろりに掛けられた鍋の蓋を取って中を覗いている始末。
 飯を食べ終わり、千夏は桃太郎の言いなりに納戸から布団を出して敷いた。
「一組だけでいいぞ。獣に布団はいらん」
 それもそうだ、と千夏は納得するもすぐに眉をひそめる。
「じゃ、あたしのは?」
「納戸で寝ろ」
「はぁ? なんであたしが納戸で寝なくちゃいけないの? あたしの金で野宿せずにすんだんだから、あんたが納戸で寝なさいよ!」
「がたがたうるせえ」
「えっ、な! なにするのよっ!!」
 桃太郎は千夏の腕を乱暴に掴み、納戸へ押し込むと戸を閉めた。そこへご丁寧につっかえ棒までされて千夏は見事に閉じ込められてしまった。
「バカっ! 開けてよ! ひどい! 私が何したのよ!!」
 しばらく力任せに板戸を叩いていた千夏だが、桃太郎に開ける気がないことを悟ると大人しく布団に横たわった。

 どのくらい時間が経ったのか。
 千夏は奇妙な物音と、聞き覚えのある声に目を覚ました。

「……もっと腰を振れ、犬、オレの上に座ってるだけじゃあ、褒美はやれんな。キジ、こんなに滴らせて……気持ちがいいか。オレの舌は気持ちがいいか」
 桃太郎の低い声の合間合間に、ぴちゃぴちゃと水音が響く。きゅううん、と犬が鼻を鳴らす声も断続的に聞こえて来る。
 一匹だけのものではない、荒い息づかい。
「猿、そんなに指を締め付けるな。奥まで入らんぞ……」
 一体彼らに何が起こっているのか千夏には見ることが出来ない。しかし、この息づかいと、全身にねっとりと絡まるような甘い声の響きは、薪小屋から聞こえたものと同じであった。
 千夏は布団を噛んだ。目をつむり、耳を塞いだ。それでも頭の中で獣の声が響き、桃太郎の荒い息づかいがいつまでもこびりついていた。
 目から涙があふれて来た。
 どうして自分はこんな仕打ちを受けなくてはいけないのか。
 千夏は声を殺して朝まで泣いた。
 

「いつまで寝ている、置いて行くぞ」
 泣きつかれて眠ってしまったのか、千夏は納戸の戸を開けて立つ桃太郎の足を見た。泣きはらした顔は見せたくなかった。
「裏の川で身を清めてこい。気持ちがよかったぞ。飯喰ったら行くからな」
 言葉を返す気力も無かった。
 川に入り身を清めた後、昨夜の汁を食べる。しかしそれはほとんど喉を通らなかった。

 向こう岸もかすむような大きな湖の中島が「鬼が島」だった。
昔から鬼は存在していたが、人家にまで来て暴れるようになったのはここ数年のことだ。
 一行は猿の漕ぐ船を島に着けると、岩山に囲まれた一本道を奥へ入って行った。やがて眼下に集落が望めた。人間たちと変わらぬ家構え、畑があり、家畜もいた。畑にはさらわれた人間たちが鞭打たれ、働かされていた。
「とにかく(かしら)を倒せばいい。頭はあそこにいる」
 桃太郎は集落の奥に建つ、一番立派な屋敷を指した。
「犬、猿、キジはオレの前で道を作れ。向かって来る鬼払いだ。オレはとにかく屋敷の中へ突っ込む……千夏は、ここにいろ」
「いやだ。あたしも行く」
「おまえに出来ることは何も無い。足手纏いだ」
「行くなと言われてもあたしは行くよ。大体モモのほうが私に付いて来たんじゃないか」
 桃太郎を睨みつける千夏の目には揺るぎない決意が現れていた。滅多に見せないが、こういう目をした千夏に何を言っても聞かないことは桃太郎も長い付き合いで承知していた。
「勝手にしろ。ただ、オレから離れるな」

 集落の入り口から、桃太郎を先頭に千夏、獣人が堂々と屋敷へ向かう。
 集落にはもちろん、赤や青や黄色の筋骨隆々の鬼たちがそこここにいたが、突然の大胆な来訪者をどう扱えば良いか分からぬ様子で見ていた。
 しかし、とうとう一匹の鬼が鉄棒を振り上げて桃太郎に襲いかかって来た。桃太郎はそれをひらりと交わしながら、腰の刀を抜き、再び向かって来た鬼の腕を落とした。
 今の一太刀で完全に鬼の標的となった一行は、稲妻のように走り出した。
「千夏、付いてこい!」
 次々と鬼を切って行く桃太郎の姿は、普段のあのだらしない男のかけらも無かった。まるで、別人だった。
しばらく彼を追っていた千夏は、とうとうその足に追いつけず、地に膝を着いた。鬼たちは桃太郎たちを追うのに夢中で、座り込んだ千夏に目も留めない。
「おまえはどこかに隠れていろ!」
 走りながら肩越しに桃太郎は言い放った。

 
 家と家の間に積み上げられた酒樽の後ろに身を隠し、千夏は膝を抱えてじっとしていた。
 所詮あたしはモモの足手纏い……。
 
 自分が彼の役に立てない所か、却って疎ましい存在だと思い知らされ、打ちのめされた。
 集落は混乱し、攫われた人々は逃げようと走り回り、家畜も興奮して土ぼこりを上げて逃げ惑っていた。鬼は、全て屋敷の方へ行ったようだ。
 モモ……。
 千夏は慕う男の無事を祈ることしか出来なかった。

「こんなところにいたのか。出てこい。全部終わったぞ」
 荒い呼吸で胸を膨らましながら、桃太郎は千夏に手を差し伸べた。あれだけ鬼を切っていたのにも関わらず、差し出された桃太郎の手は綺麗だった。あまりにも返り血が酷く、洗ったのだろうか。
「モモ!!」
 差し出された手は取らず、千夏は桃太郎の胸に飛び込んだ。逞しい腰に腕を回す。
「無事で良かった……」
「オレは強い、って言ったろ」
 桃太郎は千夏の頭をそっと撫でた。

 集落は閑散としていた。鬼の姿も見えなければ、鶏一羽も歩いていない。
「お、鬼は……?」
(かしら)が落ちたら、逃げた」
 桃太郎は長い前髪をかき上げ、口の端を上げた。
「獣人は?」
「知らん。屋敷の宝を持てるだけ持って逃げたんじゃねーか?」
「じゃあ……帰れるんだね。あたしたち」
 千夏は初めて心底安堵し、桃太郎を見上げた。が、なぜか桃太郎は厳しい顔をしたままで、そのくせ目は妖しく光っていた。
「まーー、そーいうことなんだけどな。でも、帰る前にやらなきゃいけないことがある……」
「やらなきゃ、いけないこと? なに?」
 首を傾げる千夏を、桃太郎はいきなり肩に担ぎ上げた。
「オレは今、女が欲しい。なんかまだ、こう、昂ってなあ」
「えっ……!? ……いやだ! いやだいやだ! 下ろせッ! 交わりたいなら、犬でもキジでも猿とでも交われ! 汚れた手で触るなっ!」
「あー、そう、ちなっちゃん、妬いてるんだ」
 幼い時の呼び名で呼びながら、背中を拳で叩き続ける千夏の尻をなだめるように撫でる。
「ど、どこ撫でてるんだよっ! やめろ! 人も獣も見境無く交わるおまえに触られたくないだけだ!」
「あのさあ、オレが獣と好きで交わるとでも思ってんの? 獣人は誰が力を持ってるか体でわからせなきゃいけないんだよ。誰が主人か、な。そうでもしないとすぐに裏切るからなあ、あいつら。雌は強い雄には逆らわん」
「……」
 千夏は振り回していた手を止めた。
「なら、どうしてあたしを閉じ込めた」
「見たかったのか?」
「……見たくない」
「だろ」
 大人しくなった千夏を担いだまま桃太郎は、がらんとした屋敷に入り、幾つもの部屋を通って奥まで行くと、そのだだっ広い板の間に千夏をそっと座らせた。まだ不安で揺れる千夏の瞳を、正面からじっと見つめる。
「千夏、オレが好きか」
 桃太郎の、闘志冷めやらぬ情欲に駆り立てられた目に圧され、千夏は思わず頷く。
「ちゃんと言え」
「……モモが、好きだ」
「オレも千夏が好きだ。千夏が欲しい。今すぐ」
 何か言いかけようと、開いた千夏の口を唇で塞ぐ。それを味わうように啄み、舌でほぐす。千夏の鼻息がだんだんと乱れる。桃太郎の着物の前を握る手に力が入る。
「ん……ふぅ……」
 初めての口づけに苦しくなった彼女が緩めた口元に、素早く舌を滑り込ませる。とまどう千夏の小さな舌を絡め取り、ねっとりとした表面を擦り合わせる。ゆっくりと彼女の口腔内を味わいながら、徐々に押し倒す。
 桜色の唇を吸いながら荒い手つきで着物の前を開くと、誰の目にも触れられたことの無い乳房が姿を現す。胸元を隠そうとする彼女の両手首を片手で頭の上で押さえつける。細い首筋に、肩に……きめの細かい肌に舌を這わせる。自由な手はすっぽりと乳房を包み込み、円を描くように捏ねている。
「あっ……はぁ……」
 そんな柔らかな舌の愛撫に千夏の敏感な体が過度に反応し、口からは悩ましげな溜息が漏れた。

 ああ、あたしはあの女たちと同じだ……モモにあらゆるところを撫でられ、つまみ上げられ、舐められてよがり声を上げる……。

 その羞恥がさらに体の感度を高めた。
「綺麗だぞ、千夏……」
 桃太郎はときに肌に軽く歯を立てながら、まだ成熟しきっていない膨らみを徐々に上り詰め、頂の薄紅に染まった蕾を舌で転がす。
「ああっ……」
 淫らになりつつある声を極力抑えようとするが、その突起への愛撫は強烈で、つい高い声を上げてしまう。
「もっと、声を出せ」
 はだけた着物から伸びた脚を撫で上げながら桃太郎は蕾を吸い続けた。
「は……あっ……あぁ……モモ……だめだよぉ…………」
 十分に胸への愛撫を堪能すると、彼は体を起こして千夏の脚を開いた。薄い毛の下にすっと筆で書いたような割れ目がある。初めて、男の目に晒された千夏の雌の部分。
 桃太郎がそっと割れ目を撫でると、つうと透明な液が流れ出た。指先で襞を分けると、桃色の陰部が濡れ光っている。真ん中の小さな突起にくるりと蜜を塗り付けた。
「あぁあん!」
 千夏は体をひねって桃太郎の指から逃れようとしたが、彼は膝を押さえつけ、「だめだ」と一言放つ。
 それだけで千夏は大人しくなった。気を良くした桃太郎は顔を脚の間へ埋めて千夏を味わった。沁み出して来る蜜を舌で何度もすくい取る。
「はぁあっ……ああ……モモ……そんなところ、汚い……やめて…………」
「汚くなんか無い。おまえの体は、蜜は、声は特別甘い。おまえだけにオレは酔う」
 千夏の顔を下から覗く。火照った頬、潤んだ瞳が扇情的で、一気に桃太郎のものが猛る。早く千夏の中へ。気持ちははやるが、千夏はまだ男を知らない。昂る気持ちを抑え、桃太郎は指を襞の間へ沈めた。
「んっ……」
 自分の中に侵入した異物感に千夏は喉を鳴らす。
 桃太郎は指に、きゅう、とまとわりつく肉壁をほぐすようにゆっくりと指を前後に動かした。
「ふっ……ううン……」
 指が中に姿を消すたびにおびただしい蜜が溢れ出す。指を二本に増やし、泉をかき混ぜた。
「あっ……や、やだよ、モモ……なんか、変…………」
「や、じゃない」
「オレがおまえに今までひとつでも嫌なことしたことがあるか?」
「んっ……な……い」
 あ。
「なんだよ」
「他の女たちと……」
 ーーああ。
「オレが欲しかったのはおまえだけだ、千夏。他の女と交わっていてもいつもお前のことだけを考えていた」
 じゃあ、どうして……
「おまえを抱かなかったか? いくらオレが盛りの付いた男でも、子どもには手を出さない。おまえが女になるまで待っていた。おまえが『しるしが来た』と言ったとき、どれだけ嬉しさに打震えたかわからんだろうな……皆まで言わせるな。悪いがオレはもう我慢の限界だ。今度はおまえが我慢しろ……痛むぞ」
 熱い塊が体にめり込んで来るその初めての感覚に、千夏は体を強張らせた。冷や汗が毛穴から噴き出す。
「んぅう……痛い……よぉ……っ」
「そうだな、おまえの中はかなり狭いな……でも、オレは気持ちがいいぞ……力を抜け、千夏」
「モモ……きもちいいの?」
「あぁ……かなりな」
 千夏はその言葉に愛しさを募らせる。体が少し緊張を解く。
 モモは、私の中で……気持ちがいいって…………。
 すかさず桃太郎は千夏の乳房にむしゃぶりついた。
「ふぁああっ」
 小さな電流が千夏の体を走った、そのタイミングを桃太郎は逃さず、己を一気に奥まで挿入した。
「ひっ……い……っ……」
 千夏は痛みに身を引きつらせ、思わず桃太郎の背に爪を立てた。
「全部、入ったぞ……」
 えっ……。
「千夏の中、オレを締め上げてる……」
 からかうような、それでも慈愛に満ちた笑みが目の前で揺れた。
「泣くな」
 自分では気がつかなかったが、涙があふれていたらしい。桃太郎の眼差しが一変、憂いを浮かべる。
「違うよ…………嬉しくて。モモ……好き」
「可愛いヤツ。オレの千夏……」
 桃太郎はもう一度千夏に口づけながら、堰を切ったように腰を動かし始めた。
「ん………ぅんんー!」
 襲いかかる痛みに声を上げるが、それは全て桃太郎に飲み込まれた。
 それでもその悲痛な響きは、時間が経つにつれ、桃太郎の腰の動きに合わせて甘い嬌声に変わっていった。

 桃太郎に横抱きにされながら馬の背に揺られ、帰路につく。鞍には袋にいっぱいの金や銀貨が詰まっている。——桃太郎が、持ち帰るなら金。装飾品は持ち主が出て来たら返さなきゃならん、と言い張った。
「もしかして始めから、鬼退治に行くつもりだった?」
「は? まさか。おまえが勝手に飛び出して行ったんだろうが。だからやむを得ず、だ。オレは言ったはずだぞ、オレの大切なもんは守るってな。村もじじいもばばあも関係ねえ。オレにはおまえだけだ」
「……なんか、勝手だなぁ……」
 しかし、ふつふつと嬉しさが込み上げて来る。そんな言葉に喜ぶ自分の方が勝手ではないのか。
「男なんてそんなもんだ。……おまえ、まだ痛むだろ。ちょっと頑張っちゃったもんなあ」
「うん……少し響く感じ……って、あれがちょっとなの?」
 たまにずきずきと奥が痛む。それでも、桃太郎と繋がった嬉しさがその痛みを多少は和らげた。
「まー、痛いのなんか三、四日で消える。それから毎日やればもうそっから天国だぞ」
 毎日!? 上げた声が思わず裏返る。逃がさんとばかりに体に回された腕に力が入る。千夏は頬が熱くなるのを感じながら、桃太郎の顔を見上げた。
「モモ……あんた、鬼だよぉ……」
 そうかもな、にやりと笑う彼の犬歯がきらりと光った。

【完】