Klee~四つ葉のクローバー~(双子BL編)

今日は久々に比和子がうちに戻って来るという。べつに水沢と離婚前提の別居を決めたわけじゃない――残念ながら。

ただ、水沢が一歳になる尚人を連れて実家に遊びに行っただけの話だ。たまには比和子にも一人の時間を、という配慮らしい。

父さんは学生時代からつるんでいる仲間とこの週末、温泉旅行――が名目の――麻雀大会に行った。

誰もいない事務所で要至急案件を処理すると、ぼくは駆け出したくなる気持ちをなんとか抑えながら帰った。

「ただいま。比和子? もう来てるのか」

玄関には比和子の華奢なミュールが揃えてあった。その隣には仁のでかいスニーカーも革靴もある。休みなのにあいつ、家にいるのか。まあ、比和子が帰って来るならそれは当然か。

二人がいるにしては不気味に静かな家に上がる。階段の脇を通ると二階から微かに声がした。

なんだ、あいつら上にいたのか。しかしその声がよりはっきりと聞こえてくると、階段を上がるぼくの足が止まった。

――……ん……いい……もっと…………あっ、あっ……もっと、おく……

鼓膜にねっとりと絡み付く、幾度となく聞いたことのあるその声。容易くぼくの雄を刺激する喘ぎ声は比和以外の誰のものでもない。それなら、その相手は……。

――っあ! ……いや、だめっ……じん……やっ、そんなとこ……あぁ……じん……

ぼくは気配を消し、階段を下りて居間のテレビを付けた。ボリュームはもちろん絞れるだけ絞ったが、ミュートにはしなかった。そうすると、当然二階の声に耳をそばだたせることになる。

ワイシャツのボタンを外す。何かが動いている画面の一点を見、適当な間隔でチャンネルを変えていた。そんなことをしていたら、いつの間にか仁がビールを片手に、Tシャツとボクサーパンツ姿でソファの横に立っていた。

「普通、ぼくが帰ってくるってわかってて、するか?」

ぼくはテレビに視線を戻して言った。

「おまえ、仕事遅いからな。今日は読み間違えた」

「比和は?」

「寝てる。相当イカせまくったから当分起きないぞ、あの調子じゃ。いやー、久々だったけど、相変わらずおっぱい柔らかかったな。吸ったら、少し出て来たぞ」

「尚人、とっくに卒乳したってよ」

どさり、と仁はぼくの隣に体を投げ出す。汗に混じったやつの香水の残り香がやけに鼻につく。仁はビールをテーブルに置いた。

「わりぃな、おれは当分しないぞ」

「鬼畜」

「本人、喜んでるからいいんだよ……って、おまえ妬いてるんだろ。悔しいか。一足遅かったって」

「おまえには言いたくない」

「キスくらいしたいか」

仁がにじり寄る。ぼくと同じ顔。乱れた前髪の後ろの瞳にはまだ欲望が燻っていた。――怯んでたまるか。

ぼくは弟を睨み返す。

「ふざけんなよ」

「ふざけてねえよ」

仁の威圧が濃くなった気がして、ぼくは顔を背けた。

その瞬間、仁の素早く伸びた手はぼくの顎を掴み、ぼくの唇に無理矢理自分のを押し付けた。

「ぅ……」

仁の肩を押し返すも、体ごと伸し掛かってくる男の力には抗えない。きつく唇を吸われ、ぼくが抗議をしようと開いた口に舌が割り込んで来た。仁は遠慮なくぼくの舌に絡み付き、唾液を流し込んだ。柔らかな肉感と、微かなざらつき。変に頭の芯が痺れてくる。そして、なぜか、もう一つの芯にもその感覚が直結しているようだった。

「っ……やめろよ」

なんとか仁の体を押し返し、甲で口を拭う。腰を上げかけたぼくを、仁の言葉が止めた。

「間接キス」

「は?」

「比和と間接キスだろ。どう考えたって。嬉しいか」

仁は薄く笑って、ぺろりと唇の端をなめた。

「やってらんねえ」

「おまえが、おれを『ご主人様』って呼べば……比和子のあれ、舐めさせてやる」

ぼくは思わず相手の顔をまじまじと見つめ返した。本気か、冗談か。瞳は、笑っていない。

「おまえ、何様? 冗談も休み休み言えよ。ぼく、疲れて帰って来てるのにさ。それになんで比和のことをおまえが勝手に決めるんだよ」

「冗談じゃねーよ。まだシャワー浴びてないから、おれのに、比和のがたっぷり染み付いてるんだけど。あいつ、今日もぐしょぐしょだったからな」

喉が、鳴った。ぼくの心を見透かしたように、仁が続ける。

「比和、おまえと和解したけど、体は許してないもんな。またガキの頃みたいに、襲うわけにもいかないし。……でもおまえは比和禁断症状に悩まされてる。違うか? あいつの匂いで簡単に勃つだろ。触れたその手で手慰めしてるだろ。おれには全部わかってんだぞ。だから、兄を苦しみから解放してやろうっていう弟の思いやり」

「いい加減なことほざくな。じゃあなんなんだよ、その『ご主人様』ってやつは」

「演出。その方がおまえもやりやすいだろ。ご主人様と執事」

「執事がそんなことまでするか、バカ」

「するんだよ、最近のはよ」

思わず、視線が仁のボクサーパンツの緩やかな盛り上がりに落ちる。

「うまいよ、比和の。散々舐めてきたおれが言うんだ。間違いない」

ぼくはソファから下り、仁の脚の間に跪いた。仁は微動だにしない。ボクサーパンツに両手を掛ける。手の動きを止め、仁を仰ぎ見る。

「なんか忘れてねーか」

鋭い眼差しがぼくを射る。

……どうしてもそれを言わせるのか。でも、比和を味わえるというなら。仁の言う通りだった。ぼくは比和を体の底から欲していた。気が狂いそうになる、一歩手前だった。

「ご……ご主人さま……」

「存分に味わえ」

パンツから足を抜いて開かれた中心に、力なく垂れているものをそっと握る。そこにまみれたものに、湿った手の平が吸い付く。扱いは十分わかっているつもりだ。

顔を近づけると、熱に(いぶ)され、男と女の混ざった匂いが鼻先に蘇った。

少しすぼめた唇で鬼頭に吸い付き、あとは無我夢中でそれをしゃぶりまくった。比和のあそこの、比和の味。舌が痺れるような。頭の芯が痺れるような。たしかにぼくはその味を覚えていた。

すぐに口の中が仁の膨張したペニスで一杯になる。なめらかで熱い亀頭が喉の奥を圧迫する。

「そう……、いいぞ。根元……まで、入れた、から……な」

荒い息の合間に言葉が溢れてきた。

なんだ、仁も余裕ないのか。ぼくはゆっくりと根元に舌を這わせた。表面全体を押し付けるように舐め上げる。仁のペニスが喜びに震えるのが舌に伝わる。

仁の手がぼくの髪を揉み混ぜた。腰が揺れ、弟の息が上がってきているのを聞きながら、ぼくは比和子の残滓をひたすら舐めしゃぶる。

大丈夫、ご主人様。ご心配はいりません。まだまだ、イカせませんよ。

お楽しみは、これからですから。