蜜は愛より出でて愛より甘し 7-3

 ベッドが軋み、あられもない嬌声と低く乱れた息遣いが、薄暗い部屋に響き渡る。

「ああっ、ジュリアス様あっ……、そこ、そこ……気持ち、いい……」

 二股の燭台に灯された蝋燭が、汗で艶めき、同じリズムで揺れる二人の体をぼんやりと闇に浮き上がらせていた。

「ここ?」

 密着させた腰をさらに押し込み、ジュリアスはピアの急所を突き上げた。

「あんっ、あっ、そこっ……。すごい……の……っ。もっと……、もっと、……ぁんっ」

 ピアは頭の下の枕を両手で握りしめ、胸を大きく喘がせた。ベッドの周囲には二人の衣服が脱ぎ捨てられ、部屋にはすでに濃厚な情事の香りが漂っている。

「本当に、ピアはいやらしくなってしまったね。感じている顔がたまらなく興奮する。もっと見てもいい?」

 悪戯な笑みを浮かべたジュリアスが、余裕たっぷりに腰をさらに大きく動かす。

 壮絶な快感が弾け、頭に白い光が明滅する。ピアは限界まで仰け反り、汗が滲む体をわななかせた。もう何度目の絶頂だろう。

(ジュリアス様と……こうしてまた愛しあえるなんて……)

 多幸感に全身が蕩けるような感覚に溺れつつ、思った。心が解き放たれたことで、ジュリアスに全てを委ねたことで、身体にはかつてない官能がもたらされていた。

「今日のピアは乱れすぎじゃないか? ねえ、ピアは誰のもの?」

 執拗な腰遣いで蜜路を満遍なくこすり上げつつ、ジュリアスが問う。穿たれている泉は愛液で濡れそぼち、ヌプヌプと卑猥な水音を立て続けていた。

「ジュリアス様の……。私は……ジュリアス様だけのものです……」

 答えながら、服従の悦びにうち震える。ジュリアスは、すっかり従順な彼女の言葉に頰を緩めて質問を重ねた。

「でも、よく考えるとピアは家庭教師で、僕は教え子だけど、道徳的にそれはどうなのかな……」

「そんなっ……でも……でも、私はジュリアス様をお慕いして……こんなに愛しているのに……」

「年下の生徒に本気になるなんて、ピアはまだ経験が足りないんだな。真面目なピアがこんな風に腰を振って僕のペニスの虜になってるなんて、家族は想像もつかないだろうね」

「い、意地悪です……そんなこと……」

 追い詰められると、余計に興奮が呼び起こされ、蜜路がひくひくと蠢いた。

「あ、これで興奮しちゃうんだ……。ピアはいじめられて喜ぶなんて、本当にいやらしいね」

「もう、やめて……」

 しかし、ジュリアスの言うことは本当だ。辱められれば辱められるだけ、自尊心や虚勢が剥ぎ取られ、快楽を求める本能だけがむき出されてしまう。解放された欲望は天井知らずに膨れ上がり、ピアは狂おしいほどに彼を求めてしまうのだ。

「ごめんね。そんな泣きそうな顔が可愛いし、ますます淫らになるピアが見たくて、ついいじめてしまう。大丈夫。誰がなんと言おうと君はずっと僕だけのものだから、いつでも淫らなピアをたっぷり愛してあげるよ」

(ジュリアス様だけのもの……)

 言葉が急に現実味を帯びて、胸が打ち震える。

「想像して興奮してるでしょ? 締め付けがすごい……」

 隘路を刺激しつつ、ジュリアスが嬉しそうに囁いた。

 ご褒美とばかりに抽送が再開される。しなやかな筋肉をまとった腰が猛然と叩きつけられる。支配した身体の全てをあますところなく貪る勢いで、ペニスは蜜路に激しく出入りし、混ざり合った体液をさらに溢れさせる。

「ああん、あん、あっ、あん、あんっ」

 ピアは枕を握りしめ、必死で衝撃を受け止めた。確かな愛に包まれ、熱の塊に蜜路を貫かれる性感が、これ以上ない愉悦となって全身を駆け巡り、確実に高みに追い立てられていく。

「可愛いピア……。絶対に離さない……」

 腰が円を描き、抱きしめられて唇が奪われる。口内を蹂躙するように舌が這い回り、付け根が痛くなるほど強く舌を吸われると、頭の芯がじんと痺れ、吐息が甘い音色に変わる。

(私はもうあなたのもの。どんなふしだらなことでも喜んでします……)

 服従の言葉を胸の内で告げ、淫靡に舌を絡ませ合う。上も下も塞がれて広がる愉悦が意識を桃色に染めていく。まぶたの裏の光彩がまばゆい。楽園への扉が開き始める。

「ジュリアス様、私、もうっ」

 ともに達したい。そんな思いを込めて彼を見つめると、ジュリアスもしっかり頷いた。

「僕も、一緒にイきたい。僕の子種をたくさん注いであげよう」

 腰が前後に揺れ始める。ジュリアスはピアを追い立て、自らもまた上り詰める為の激しい動きで、蜜路を攻め込んだ。

「あああ、ジュリアス様っ……私の、ジュリアス様……っ」

 ピアはジュリアスの背に腕を回し、全力で抱きついた。

「くっ、ピア……僕のもの……っ」

 苦しげに呻きながらジュリアスは最奥に突き込み、体を震わせた。ドクンと熱い波が打ち寄せ、高みに突き上げられたピアは突然浮遊感に包まれる。深い愛情と喜びが胸を満たし、うねる快感に再び襲われ、体がわなないた。

(……私、おかしくなっちゃう……何度も……イき続けてる……っ)

 壮絶な愉悦に、開いた唇は震えるだけで声が出ない。絶頂の波にもまれて、二人はお互いを固く抱きしめ合う。硬直したジュリアスの体に震えが走り抜けた。

(ああ、出てる。熱いのがたくさん。嬉しい……)

 全身を包む多幸感のなか、熱いほとばしりで満たされ、愛する男の色に染められていく喜悦に胸が打ち震えた。

(こんなに注ぎ込まれたら、妊娠するかも。ジュリアス様の赤ちゃんをお腹に宿す……)

 幾度となく抱いた禁断の想像だった。でも、これからはそれが許される——。

 深い愛情と喜びが胸を満たし、一度は峠を越えて鎮まりかけていた官能が再びざわざわとさざ波となって打ち寄せる。一瞬硬直したジュリアスの体が、揺れた。

(えっ、嘘……。ああっ、だめっ、イくっ)

 すでに何度も達して昂った体は、新たな刺激にたやすく燃え上がる。ピアは再び快感の渦潮に呑み込まれた。

(ああっ、すごい。こんなの初めて。おかしくなるっ)

 桁外れの愉悦が体を駆け巡り、連続して襲いかかる絶頂に戦慄する。ジュリアスに導かれた楽園は、想像以上の至福の世界だった。

「ピアっ、僕を全部受け止めてっ、くっ……ううっ」

 ジュリアスは、甘美な締め付けに表情を歪め、腰を押し込みながら何度も精を放つ。

(あ、奥、奥に……もしかして、ジュリアス様……わざと?)

 子種を植え付けようとする彼の強い意思を汲み、ピアの胸はときめいた。

「ピア……愛してるよ」

 精魂尽き果て、ピアに体を預けたジュリアスが、なだらかな肩に顔を埋めたまま陶酔したように言った。

「私もです……。でも、本当に天国に行ってしまうかと思いました」

 見つめ合いながら、ピアは愛しい恋人の髪を優しく撫でる。二人の乱れた息遣いが部屋にこだまする。

(幸せだわ。夢じゃないかしら……) 

 愛し愛される喜びをしみじみと噛みしめる。この先、自分たちをどのような運命が待ち受けているかはわからないが、ジュリアスと共に居られるなら、いかなる苦難も怖くないと思った。結局、ジュリアスを選んでしまったことはアンソニーには申し訳ないが、誠意をもって話せばきっとわかってくれるはずだ。

(私は今、ジュリアス様と一緒にいる。もし、将来彼が他の人に心を奪われても、これだけ愛された思い出はすでに私の宝だわ)

 先の見えぬ将来に不安を抱くより、今二人の間にある愛と真実を許される限り大切にしたい。

 ピアがその新たなる決意を心に刻んだ、その時。

「やはり、こうなってしまったか」

 突然の声に、ピアとジュリアスはハッとなってドアを見た。そこにはアンソニーが立っていた。彼の持つ燭台の炎が怖いほど冷淡な彼の顔を、仄暗い部屋に浮き上がらせている。

「ア、アンソニー!」

 ピアは身を起こし慌ててシーツを胸に引き寄せる。そんな彼女に苦笑し、彼は重い溜息をついた。

「なんとなく胸騒ぎがしてな。虫の知らせとでもいうか。早く切り上げて帰って来れば……」

 そのまま、鋭い視線をジュリアスに向けた。

「アンソニー、あの、これはつまり……」

 とっさに背中でジュリアスを隠し、ピアは必死で言い訳を探す。

「テンハーゲン殿。悪いのは全てこの私だ。私が無理やりピアに迫ったのです」

 ジュリアスも後ろから腕を回し、守るようにピアをしかと抱いた。しかし、当のアンソニーはすっと天井へ目を向けると、淡々と独りごちた。

「私と暮らせば、いずれピアは殿下を忘れるだろうと思っていたのだが、まさかこんなあっさりと奪われるなんてな」

 そして再び二人に向くと、近くのテーブルに燭台を置き、無言でベッドに近づいた。

「アンソニー……」

 とっさに、ジュリアスがピアを横にずらし、体で庇った。

「殿下……その若さでなかなかの器ですな、あなたも。さすが次期国王様。間男とは大した厚顔ぶりだ」

 アンソニーが口角を上げて微笑したその直後、風が起こり、肌を打つ乾いた音が部屋に響いた。

「ジュリアス様っ!」

 痛みに歪んだジュリアスの横顔を見て、ピアの体からさっと血の気が引いた。

「暴言どころか殿下に手を挙げるなど、どれほどの大罪か皆目見当もつかないが、処刑するならするがよい。もはやピアのいない人生は私にとって意味がない」

 アンソニーはジュリアスを見下ろしながら、静かに言った。

 その姿はあまりにも堂々とし、そこでは権力が逆転しているようにさえ見えた。だが、ジュリアスも負けじと顎を上げて相手を見据えた。

「お前の血で処刑台を汚すようなことはしない。私がお前の立場なら、きっと同じことをしただろう。……すまなかった」

 恋人を必死に守ろうという大人びた態度と、闘志を滲ませたジュリアスの横顔に、ピアの胸は熱くなる。しかし一方で、静かな怒りの影にかすかな悲哀がちらつくアンソニーの瞳を見ると、またキリキリとその胸が締め付けられた。

「礼を言うところなのかな?」

 アンソニーは真っ直ぐにジュリアスを見、絞り出すように言う。ピアはそんな彼にたまらずに言った。

「アンソニー、ごめんなさい、私、やっぱり……」

「君が謝る必要はない。今のは最後の悪あがきだ。元はと言えば、私が君たちを強引に別れさせたのだから」

 冷徹な眼差しで見下ろされ、ピアは罪悪感に俯いた。

「で、でも……私が……私は……」

「皆まで言うな。君の優しさで余計に傷つきたくはない。だが、殿下……」

 アンソニーはジュリアスに向いた。

「痛み分けということで言わせてもらいますが、私がこの二週間余りの間、いったいどれほどの子種をピアに注ぎ込んだとお思いですか?ピアに子供ができたとして、あなたはそれでも何も疑わず、責めず、今と変わらぬように彼女も、子供も愛せるのですか?世間にひた隠しにし、あなたの世継ぎとして王座につかせられるのですか」

 冷静に考えればいずれはわかることだが、ピアに再会した感動でジュリアスはそんなことまで念頭になかったに違いない。

 はっきりと現実を突きつけられ、ジュリアスの顔が青ざめた。

(そうだわ……。そんなこと、許されるはずがないわ……)

 重い沈黙が部屋に満ちた時、アンソニーを正面から見据え、ジュリアスがきっぱりと言った。

「もちろん、愛せる。私が愛した女性から生まれた子供は、私の子だ。誰がなんと言おうと。それに、本当に私の子を宿しているかもしれない。それは、神のみぞ知ることだ」

「ジュリアス様……」 

 ピアが感動に瞳を潤ませると、アンソニーが小さくため息をつく。

「私は少しあなたを見くびっていたようだ。そこまで言われたら、私は降参だ。だが、そう言うからには口だけではなく、それだけピアを愛していることを、私の前で証明していただきたい」

 そしてアンソニーは薄い笑みを浮かべた。

「殿下、ここで、私の目の前でピアを抱くのです」

 ピアは思わぬ発言に耳を疑った。ジュリアスも目を見開き、アンソニーを凝視している。

「え……お前は今……」

「いいから、早くしてください。ピアはまた欲しがってますよ」

 アンソニーは明らかに困惑しているジュリアスを急かした。ジュリアスがピアを見つめる。その双眸に早くも情欲の炎が復活していた。

「だ、だめ……ジュリアス様」

 ピアはジュリアスのあまりに神妙な気配に怖気付き、少し退いた。ジュリアスがその分、にじり寄ってすぐに間を詰めた。

「気にせず押し倒してください。そして、どれほどあなたがピアを喜ばせられるか見せてください。私が満足しなければ、私はあなたにピアを渡しませんよ」

 その一言が決定打だった。ごくっと唾を飲んだジュリアスが「ピアっ」と叫んで押し倒してくる。

「ま、待ってください。お願い、もう少し話し……」

 ピアの抵抗も虚しく、性急な手つきで脚を開かれ、一息に貫かれた。たっぷり濡れていた泉を、瞬く間に張り詰めた屹立がみっちりと埋め尽くす。間髪を入れず腰が動き出し、二人の体液をたたえた蜜路を満遍なくこすり上げてくる。たちまち甘美な痺れが広がり、愉悦の波に乗るようにピアは背をのけぞらせた。

「あんっ、ダメです、やめて……。こんな……見られて……いやぁ」

 何度も達した身体は敏感になりきっていて、くすぶっていた官能の火種は瞬く間に炎となった。そして、アンソニーに見られているという羞恥が火に油を注いだ。

(アンソニーが……見てる。どうして? あなたは私のこんな姿に……傷つかないの?)

 ピアは背徳感に苛まれながらアンソニーを見つめた。だが、その無表情な彼の目は何も答えてこない。

 結果的にはジュリアスを選んだが、アンソニーが嫌いになったわけではない。初恋の人であったのは事実だし、一番身近な男性として今も尊敬しているし、そこにはもちろん好意も含まれている。そうでなければ、身体を許してなどいなかった。

「ピア、他のことを考えているだろう。殿下に失礼ではないか」

 アンソニーにはピアの混乱が筒抜けだったに違いない。アンソニーに窘められ、ピアはすぐにジュリアスの抽送のリズムに合わせ、送り込まれる快感に身体を委ねた。

「ほう、私の時とはまた違った顔をするのだな。まあ、淫靡であるには代わりはないが」

「や、……見ないで……」

 気がつくと、アンソニーがベッドに上がってピアを見下ろしていた。頰がカッと熱くなる。ピアの隣で膝をついたアンソニーは、ふるふると揺れる乳房を掬い上げるようにして揉み上げた。妖しい官能がたちまち全身に広がり、絡みつく。

「あ…‥っ、だめっ……」

「そういえば、最近は忙しくてこの柔らかな乳房に触れるのも久々な気がするな。寂しい思いをさせた詫びを十分にせねばな……」

 形が歪むほど強い力で愛撫され、峻烈な刺激がジュリアスの刻み込む律動の快感と混じり合い、ピアは思わず甘い喘ぎを漏らした。

「恥ずかしげもなく蕾もこんなに硬くして。殿下の前ではしたないと思わないのか」

 ぷくりと充血した尖りを指先で転がされる。甘い性感に「ああん」と声を漏らしながら、身体がシーツの上でくねってしまう。

「い、いくらなんでもあんまりです……ジュリアス様の前で、こんな風に辱めるなんて……」

「私は君を喜ばせたいだけだ。殿下をこの身体で誘惑する、淫らな家庭教師のピアをな」

「そんなことっ」

 反論を封じるように、キュッと指先に力を込められた。痛み交じりの性感に意識が一瞬飛ぶ。

(こんなことをして……アンソニーは私を憎んでいるの?)

 真意を探ろうと表情を横目で見やると、アンソニーは穏やかに微笑んだ。

「悔しいから少し意地悪をしてるだけだ。これから皆で仲良くやっていくのだから、君には嫌われたくないしな」

「なか、良く?」

「テンハーゲン、お前は……それは本気なのか?」

 腰の動きを止めてジュリアスが訊ねた。

「もちろんです。最良の妥協案だと思うのですが。我々にも、ピアにとっても。つまり三人が幸せになるという結論になります」

「なるほど……その考えには至らなかったが……そうか……」

 合点したように、ジュリアスは頷く。ピアは二人の会話を聞いて目を瞬かせ、刹那、その意図を理解し、声を上げた。

「そ、そんな関係、許されません! 不道徳です」

「誰が許さないのかな? 殿下か、それとも世間か」

 アンソニーが神妙な面持ちでピアに問う。

「ど、どちらもです……」

「どうなのです、殿下。このピアは下の口で殿下を味わいながら、上の口では不道徳などと言っておりますが」

 ピアはアンソニーの卑猥な言葉に頬を染め、ジュリアスから逃れようと身をよじらせたが、腰を掴んだ手は彼女を離さなかった。

「馬鹿正直にこの関係を世間に公表することはない。誰にも知られなければ不道徳にはならないだろう」

「ジュリアス様! な、何をおっしゃって……」

 あれほど独占欲の強かったジュリアスが、アンソニーの言葉になびいている。アンソニーはその容姿にとどまらず語り口にも、老若男女、人を魅了することは以前から気付いていたが、その威力がジュリアスにも違わず発揮され、ピアはただ驚くばかりだった。

「お前とピアを共有するのは悔しいが、よく考えれば私の不在時にお前がピアの相手をしてくれれば、彼女も妙な男とは浮気などできないだろう。お前は彼女とすでに関係を持っているのだから、そこは許容しよう」

 ピアを挟んで男たちの会話は続く。

「さすがはご聡明な殿下。賢明なご判断です。結局、我々どちらも彼女を諦めたくないですし、無礼を承知で言わせていただくと、殿下はピアという女をまだよくご存じない。今の殿下ではまだ彼女を本当に満足させることは無理です。このままでは近い将来、ピアに愛想を尽かされ、彼女は結局私の元へ戻ってくると思いますよ」

 アンソニーは、眉根をひそめて様子を窺っていたピアに意味深に微笑んだ。

「そ、そうなのか? ピア。僕では君を……」

「そんなこと、ありません……」

 ピアは慌てて首を振った。

「おや、君は自分を偽るつもりか? 殿下に君の特別な性癖を打ち明けられないで、殿下を愛していると、どの口が言うのだ? だいたい、君が我々をその魅力で惑わせているのだから、君は責任を取って我々を受け入れる決意をすればいいだけのこと。誇り高く咲く花も、ミツバチにその蜜を喜んで吸わせるだろう? つまり、そういうことだ」

 アンソニーはピアの乳房をさらりと撫でる。乾いた掌が硬い乳首をかすめ、ピアはため息をついた。

「特別な性癖だって……?」

「そうです。まだ調教中ですが。殿下も想像してみてください。このピアがもっと乱れて、もっと従順になることを。私が躾ければ、いつでもどこでも、どんなことでもあなたの言いなりなのですよ」

 せつな、隘路を埋めているペニスの質量がぐっと増した。 

(ああ、興奮しているんだわ……)

 彼の興奮が伝わり、花芯が甘く疼いた。

(二人を受け入れるなんて……)

 ジュリアスとアンソニー。二人に身体を貪られる絵が頭に浮かび、たちまち身体が火照った。背徳と、二人から愛されるというこの上ない魅力に劣情の炎が揺らめき出す。だが、やはりどう考えても非常識だ。万が一世間の知るところになったら、ジュリアスの地位は危ういものになる。

「そ、そんな、やっぱりダメです。そんなこと、隠し続けられません」

「殿下が大丈夫だと仰っているのに、それを信じられなくて、それでも君は殿下の側にいたいというのか。傲慢だな、ピア」

 ぴしゃりと言い、アンソニーは再び乳房を捏ねた。咎めるように、膨らみが強い手つきで揉まれ、飛び出した先端の根元に歯を立てられる。

「ああんっ」

 甘い痛みが全身を駆け抜け、ピアは体を震わせた。

「殿下。ピアに仕置きをしてください。どうもまだ自分の立場がわかっていないようです」

 アンソニーが目配せし、ジュリアスは我に返って、頷いた。深々と埋め込んだまま、体ごと揺するように腰をしゃくり上げる。同時にアンソニーも再び乳首を口に含む。今度は、彼女を説得するように優しく、ねっとりと突起を舌で転がす。

「ふっ……、やめて……っ、こんなの酷いです……あんっ、あはぁ……っ」

 蜜路を擦られる快感と乳首から生じる愉悦の二重奏が、ピアを確実に追い詰める。

(ああ、もう何も考えられない……どうしたらいいの……) 

 二人がかりで責められ、快感は二倍どころか何倍にもなって襲いかかる。狂おしいほどの愉悦が身体中で暴れまわり、ピアは喘ぎに喘いだ。

「苦しいんだろう、ピア。もし選べないのなら、選ばなくていい。僕はピアを幸せにできることなら、なんでもする。テンハーゲンとの仲も許すよ。君が僕とずっと一緒にいてくれるなら」

 絶妙な動きでピアの感じる場所を突き上げながら、ジュリアスは哀願するような口調でピアの心を惑わす。

「ふ……二人なんて無理です、そんな、道徳に反しています……ああ、私にはわからない……」

「それが本音だな。それでは殿下、彼女にわからせてください。ピアの場合は身体の方がずっと正直です。おのずと答えてくれるでしょう」

「そんなっ……何をっ、んんっ」

 抗議の声をアンソニーが唇を奪って封じ込め、そのまま強引に舌を絡められた。首をひねって逃れようとするも、顎が掴まれているため敵わない。

 しかし、濃密な口付けにやがてピアはぼうっと陶酔し、あっという間に理性が霧散した。気がつけば、ピアもジュリアスに身体を揺らされながら、夢中でアンソニーの舌を吸っていた。

(ああ……アンソニー……。ジュリアス様……も……気持ちいい……)

 ピアの心を読んだように、アンソニーは顔を話して囁いてくる。

「そろそろ、降参かな?」

「そ……それは」

 朦朧とした頭の中に「強情だな」とアンソニーの声が響いた。

「殿下」

「ああ……」

 目配せの直後、ジュリアスの律動がピタリと止んだ。アンソニーの手も乳房から離れた。

「あ、やぁ……」

 二人の愛撫が急にやみ、身体には壮絶な渇望だけが残された。今まで激しく突き上げられていた最奥で甘美な疼きが燻っている。せっかく天上の楽園がすぐそこに見えていたのに、上っていた階段が急に目の前で消えてしまった。

 ——あそこに行きたい。

 快感にすっかり貪欲になった身体は、無意識にジュリアスを求めて彼の腰に脚を絡め、引き寄せていた。だが彼は頑なに動こうとせず、喉で笑ったあと、訊いた。

「さあ、どうする? 降参しないといつまでもこのままだよ」

(もうだめ……)

 独占欲とプライドが崩壊し、ピアは敗北を認めた。

「み、認めます……」

「何を認めるの? きちんと言わないとだめだ」

 ジュリアスの容赦ない声に、ピアの心は完全に折れた。

「わ、私は二人のものです……っ。私の全てを……ジュリアス様も、アンソニーも、お好きにしてくださいっ……」

 言葉にしてしまうと、途端に迷いも背徳感も消え、代わりに彼ら二人をひたすら愛していいのだという多幸感に身を包まれた。

「まったく、お手を取らせましたな、殿下。これからまた躾をしていかねば……」

「いや、なかなか私もいい経験をしたよ。そうか、心を完全に手に入れるとは、こういうことなのか。私もまだまだだな……」

「ピアも、さすがに最後は自分の気持ちに素直になれたな。いい子だ……」

 アンソニーが、ピアの潤んだ瞳を見下ろしながら頭を撫で、優しく口付ける。すぐに二つの舌は自然と絡みあった。

(ああ、幸せ……。こんな安らぎ、始めて)

 まろやかな官能に酔いながら、心に広がる温もりを噛みしめる。

 アンソニーがふと顔を離してジュリアスに向いた。

「それでは殿下、ピアにたっぷりとご褒美をあげてください。そのあと、私も楽しませていただきますが……」

「ああ、もちろんだとも。ピアは欲張りだからね。これは我々の祝宴だ。朝まで存分に楽しもう」

 明るく返したジュリアスが、堰を切ったように猛然と腰を振り立てる。たちどころに、くすぶっていた快感の炎が燃え上がった。肌を打つ音が間断なく部屋に響くなか、乳房に再びアンソニーの唇と舌が襲いかかる。一方の手が股間に伸びてクリトリスを転がした。

 壮絶な愉悦にピアは喘ぎ、悶えた。浮き上がった腰を強い両手で掴まれたと思うと、さらに激しい律動が繰り返され、鋼のような怒張が愛液に蕩けた媚肉をかき回す。

「あんっ、あっ、ダメッ、こわれ、ちゃうっ……あっ、はあっ、ぁああっっ!」

 今までにない幸福感に包まれながら、ピアは二人の男が共に奏でる愛の音色に共鳴し、いつまでも至福の楽園で舞い続けた。

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