蜜は愛より出でて愛より甘し 4-2

 朝の激しい情事の名残に、まだ体はけだるかったが、だからと言って他の授業をおろそかにしてはいけない。

 始まりはいつもと同じ時間よりやや遅かったが、書斎で本を開き、ピアは文字通り勉学の指導に勤しんだ。隣に座ったジュリアスは、時折肩に顔を埋めてきたり、耳にキスしてみたりと甘える様子を見せたが、ピアがやんわり嗜めると、真面目に勉強に取り組んだ。そのあたりはまだ素直な少年だった。

 滞りなく課題をこなした後、二人は長椅子の方へ移動し、ピアは使用人が持ってきたお茶を入れる。

「だいぶはかどりましたね。この本の後編は私の部屋の書棚にありますので、いつでも取りにいらしてください」

「ピアは午後、部屋にいるのかな」

 隣に座ったジュリアスがピアの脚に手を置き、そっと撫でる。そんな振る舞いも自然にできるようになったのが驚きだ。ピアは速まる鼓動を鎮めるように、ゆっくりとお茶を飲んで答えた。

「街の図書館へ本を返却し、また借りてきます。その後少し買い物などしてきますが、不在でもどうぞお入りください」

 飲み終わったカップを盆に載せているところに、執事がジュリアスを呼びにきた。今日の午後は武道と乗馬の予定だ。

「午後も頑張ってくださいね」

 微笑みを向けると、彼は名残惜しそうにピアの手を取り、指にキスをして出て行った。そんな些細な形式上の挨拶にも、ピアは嬉しくなってしまう。

 だが、そんな風に自分を、またジュリアスを甘やかすことはそろそろ止めなくてはいけない。けじめをつけないことには、結局二人が辛い思いをすることになるのだ。すでにそれは毎日自分に言い聞かせていることだったが、ジュリアスの灰緑色の瞳に見つめられると、たちまち恋の呪縛に絡め取られ、その声がどこかへ消えてしまう。

 そろそろ、彼と過ごす時間を少なくしたほうがいいのかもしれない。そう考えて、夕食まで外出することを思いついたのだった。

 ピアは身支度を整え、執事に断ってから宮殿を出た。馬を借りてもいいのだが、街まで小一時間ほどの散歩はいい気分転換になる。幸い、午後の強い日差しは林の木立に遮られ、道中は快適だ。爽やかな木々や、野バラの香りを縫って飛ぶ小鳥たちがピアの散歩の共になった。

 ピアは図書館で用事をすませると、大通りの店をひやかした。お菓子屋に立ち寄り、甘党のジュリアスのために美しい菓子を買い、露店では絹のスカーフの手触りを楽しみ、またアクセサリー屋の窓越しに、繊細な模様が施された宝石を眺めて嘆息した。噴水の近くで、すでに知り合いになった同じ年頃の貴族の娘たちとおしゃべりをしていると、教会の鐘が鳴り、ピアは慌てて帰路についた。

少し帰りが遅くなってしまった。林を抜けて、薄紅色の空の下に宮殿が見えてくると、ピアの脳裏にたちまちジュリアスの顔が浮かんでくる。すると、二人で過ごした濃厚な朝の記憶も自然と蘇り、鼓動が一層速くなった。

(もし、身分がもう少し殿下に近ければ、殿下と一緒になることもできたのかしら……)

 だが、そんな考えは何の役にも立たない。ピアは首を振って邪な願望を急いで追い出した。今まで自分の身分に不満はなかったのだし、贅沢三昧な生活ではなかったけれども、不自由はなく、温かい家族の愛に包まれて育ってきた。家庭教師になったのだって、可愛い妹の持参金を少しでも増やすため。そして、自分の夢を叶えるため。——それをうっかり忘れてしまうほど、自分は恋の病に侵されてしまったのだ。

(殿下へのこの気持ちは本当なのに……でも、溺れてわがままになってはいけないわ)

 ピアの周り、社交界でも叶う恋の方が少ないのだ。ましてや自分の恋が実るわけがない。これからは、別離までに自分と、そしてジュリアスの気持ちを整理することに努めなくては。

 気がつくけばピアは宮殿の門までたどり着いていた。 

 ピアが軽いドレスに着替えて食堂へ行くと、使用人が食事を準備しながら、ジュリアスがすでに夕食を済ませたことを教えてくれた。ジュリアスがピア抜きで食事をすることは初めてで、ピアはそれを寂しく感じたが、もしかしたら彼も自分と同じように別離を意識して、日々の習慣を変え始めてるのかもしれないと、ふと思った。

 運ばれる料理は普段と違わず、すべて上質な材料で調理されていたが、あまり食欲がなくデザートも食べずに自室へ切り上げてしまった。髪を梳いて寝る準備をした後、今日借りてきた本を手に取って暖炉前に腰を落ち着ける。するとドアがノックされ、顔を覗かせた執事が「殿下がお呼びです」と告げてきた。

(もしかして、今夜も授業を——?)

 今朝、すでに行為に及んでいたので今夜はないと思っていた。

(殿下の精力って、本当にすごいわ……)

 胸が高鳴り、頰が火照ってくる。ピアはナイトガウンの上から大きめのショールを羽織ると、ジュリアスの寝室へ急いだ。

 ピアが部屋に入ると、美しいレース飾りのシャツに、濃緑のズボン姿のジュリアスが部屋の中央に置かれた丸テーブルの脇に立っていた。その顔がどうしてか険しい。さらに、体からは緊張さえ漂っている。これから男女の営みを予感させる雰囲気はそこには全くない。ピアは不安で動揺しながら、慌てて膝を折って挨拶をした。

「疲れているところ、呼び出して悪かった」

 声に含む慇懃無礼な響きに、ピアの不安はますます募る。

 何か殿下の機嫌を損ねるようなことをしてしまったのだろうか。だが、午後はずっと顔を合わせていないので、まるで心当たりがない。ジュリアスはずっと刺すような冷たい眼差しを注いでいる。ピアがそれに耐えられず目を泳がすと、ふと机の上に置かれているものが目に入った。それが何か、一瞬で悟った彼女は身を凍らせた。あれは——アンソニーのクラヴァット。別れの贈り物だ。どうして殿下がそれを。

 ピアの視線に気がついたジュリアスは、小さく頷き、言った。

「本を取りに君の部屋へ入ったんだ。それは、君も許してくれていたね?」

 確認するように、ジュリアスはゆっくりと言葉を継ぐ。

「どうしても好奇心を抑えきれず、引き出しの中を見てしまった。そしてこれを見つけた。無断で持ち出したことは、謝ろう。だが、どうして男物のクラヴァットが君の部屋にあるのか説明してほしい」

 声は怒りを抑えているかのように低い。そんな顔を見るのも、声を聞くのも初めてで、ピアは怯えた。何から話せばいいのか。動揺と混乱に黙っていると、相手の苛立ちが募ったようで、ジュリアスはさらに問いただした。

「君は私の目を盗んで、他の男を部屋に招き入れていたのか? その男がクラヴァットを忘れるような行為をしたのか?」

 まるで別人かのように冷たく笑う。

 彼はすっかり心を閉じてしまったらしい。「僕」が、二人が打ち解ける前の最初の頃のように「私」に変わっている。

 だが、ジュリアスが誤解するのも無理はない。

(もしかしたら、これでいいのかもしれない。結局別れることになるのだから……)

 ピアの頭に一瞬そんな考えがよぎったが、まだ一週間は家庭教師として一緒に過ごせるのだ。その間、自分がジュリアスを裏切ったと誤解され、傷ついた彼に憎悪の目を向けられ続けるのはあまりにも辛い。ピアは体の前でキュッと両手を握りしめた。

「それでは、本当のことを話します。どうか、ご慈悲を……」

 ピアはジュリアスの信頼を取り戻したい一心で、アンソニーとの過去を話し始めた。

 ピアから全ての事情を聞き終わったジュリアスの顔には、先ほどの険しさは消えていたが、代わりに動揺が浮かんでいた。

「君が……そんな経験をしていたとは……」

 それだけ言うと、口を噤んでしまう。一瞬クラヴァットに目をやり、汚れたものを見たかのように顔をしかめる。

「確かに、嘘をついたわけではないな。君がそれをわざわざ僕に話す必要もなかったのは確かだし……」

 怒りを押し殺しているのだろうか。声がかすかに震えている。 

「ごめんなさい……」

 ピアは身を縮こませ、重ねて詫びた。

「いや、謝る必要はない。僕に閨の指導をするのが仕事の一つでもある。よく考えれば君が経験者で、その相手がいることも当たり前の話だ……」

 ジュリアスはふっと目元を緩ませた。だが、なぜかそこに哀愁が漂っている。ピアが見つめていると、彼は恥じるように目を伏せた。

「愛している君をどうして責められる? すまない。嫉妬からつい強く言い過ぎてしまった。もしかしたら君がこの宮殿で他の男と抱き合っていると考えただけで、気が狂いそうだった……」

「そ、そんなことは決してありません!」

 ピアは強く頭を振った。ジュリアスは口の端に笑みを刻んだ。

「ピアには僕だけ、見ていてほしい」

 ジュリアスが近づき、ピアをそっと抱きしめた。背中を優しく撫でられると、瞬く間に恐れと緊張が身体から抜ける。ピアも相手の背中に手を回し、硬い胸に身を委ねた。

「では、許していただけますか?」

「許すも何も、誤解で君を責めたのです。許してほしいのはむしろ僕の方……」

 頰に片手が添えられ、上を向かされた。

「ピア……」

 唇の上で名を呼ばれた直後、唇が重ねられる。心から謝罪するように優しく唇を啄まれ、ピアはそれに応えた。するとすぐに濡れた舌が割り込み、ピアのものと絡み合った。擦れ合う舌から生まれた甘美な愉悦が心を蕩けさせ、頭の芯がジンと痺れる。体の奥が熱を孕み、下腹が疼いた。薄いガウン越しに乳房を掬い上げるようにして揉まれると、まろやかな性感が広がり、ピアは小さく喉を鳴らした。

「あのクラヴァットで自分を慰めたことがある……?」

 唇を離し、ジュリアスは顔を覗き込んでくる。その目にはありありと嫉妬の色が見えた。ピアはジュリアスを真摯に見つめた。

「いいえ。それはありません」

 ジュリアスの顔に安堵の笑みが広がった。その変化のわかりやすさに、ピアの心がくすぐられた。

「では、完全に僕の誤解だったのだね。あなたを少しでも疑ったお詫びに、今日は僕がピアをとことん気持ちよくしてあげよう」

「そ、そんな。お詫びなんて……」

 ピアはうろたえて腕の囲いから逃れようとするが、ジュリアスは「おいで」と手を引きベッドへ導いた。そしてピアを抱き上げてその上へ横たえると、早速ショールを剥がしてガウンの紐を解き、あっという間に前をはだけさせてしまう。

「あのっ……、殿下、今日はお休みになられた方が……」

 たくし上げられるスカートを慌てて戻そうとしたピアの手を抑え、ジュリアスは悪戯な笑みを見せた。

「それでは僕の気がすまないよ。それに、そろそろジュリアスと呼んでほしい……」

 そう囁くと、ピアの腿を押し広げて顔を埋める。

「あ……」

 熱い舌にねっとりと花弁全体を舐め上げられると、全身から力が抜ける。

「この香り……たまらないよ。ここを、君の師である男も舐めたんだね?」

 潤みを自覚させるように、ジュリアスはピチャピチャとわざと水音を立てる。

「そして、君は感じたんだよね……」

「そ、それは……」

 違う、と言えば嘘になる。ピアが言葉を濁すと、ジュリアスは詰るように膨らみ始めた淫芽を強く吸った。

「あんっ!」

 峻烈な刺激に体を弾ける。脚の間から顔を上げてジュリアスが薄く笑った。

「僕の方がその男よりも、ずっと気持ちよくさせてあげるからね」 

 そう宣言し、花弁を丹念に舐め回す。まるで秘園を犯すように、大胆に舌をうごめかす。

 泉を尖らせた舌でかき混ぜられて、ピアは身を悶えさせた。ジンジンと痺れる淫芽の根元をチロチロと舌先でしごいたと思うと、口に含んで転がされる。昼間の授業で見せた真面目で素直な少年は何処へやら、彼の舌は、性を貪るためだけに動く野獣そのものだった。

 花弁の狭間で舌を踊らせ、溢れた蜜を音を立ててすすり上げる。花芯を唇で捕らえたまま、顔を激しく左右に振り立てられ、ピアは快感の嵐に胸を波打たせながら喘ぎ続けた。

「ピアは僕に舐められるのが好きなんでしょう。こんなにここを濡らして……。正直に言ってごらん」

 そんな恥辱の言葉がさらなる興奮を煽る。膨れ上がる情欲に理性はすっかり押さえ込まれていた。

「はい……好きです。ジュリアス様に……舐められるのが、好きです……」

 息も絶え絶えに囁くと、ジュリアスの瞳がらんと輝いた。腿を抑えていた指に力がこもる。

(私、なんてはしたないことを……でも、ジュリアス様も喜んでいるみたい……)

「僕も大好きだ。ピアのこの可愛く淫らに咲く花を舐め、溢れる蜜を味わうだけで幸せなんだ」

「淫らなんて……」

「ほら、僕の言葉に、膨らんだ蕾がヒクヒクしているよ」

 興奮に彼の声が震えている。嫉妬がここまでジュリアスを変えることに密かに驚き、同時に愛されているという至福も湧いてくる。

「君がこんなにいやらしい人だったなんて。僕はとても嬉しいよ」

 そう言って、内腿の柔らかい場所を甘噛みされ、啄ばむように何度も吸われた。そんな戯れのような愛撫でも、性感が刺激されて全身が震える。

「そんな……それは、あの人のせいで……元はといえばあの人にいろいろ教えてもらったから……こんな体に……」

 『いやらしい』『淫らだ』と連呼され、つい自分を庇うような言葉が口をついた。刹那、肌を吸っていた唇が離れ、ジュリアスがハッと息を飲む。

「そうなのか? その男は君にどんなことをした? 隠さずに話して……」

 その声音は厳しい。思わず漏らしたアンソニーの話がジュリアスの嫉妬心をさらに煽り、自分への独占欲を強めているのだと思うと、さらなる愛情が募った。彼の愛情をもっと自分に向けたいという欲が生まれ、さらに続けた。

「理論などそっちのけで、母やきょうだいの留守中など、ずっと体を求められました。練習だと言って、何度も彼のものを咥えさせられたり……森の木陰で後ろから抱かれたりも」

 指が太腿に食い込んだ。そっと見下ろすと、荒い息に肩が揺れていた。

(ジュリアス様、もしかして……悔しがっているのかしら……)

「それで、君はどうだったんだ? 喜んで淫らな声をそいつに聞かせていたのか? 君にこの可愛い声を出させるのは僕だけだと思っていたのに……」

 ジュリアスはそう言うと不意に上体を起こし、彼女の膝裏を抱えて腰を高く上げさせた。

「あ、あの……何を」

 開かれた脚の間からジュリアスが見下ろしてきた。その瞳は嫉妬と欲望の炎で妖しく煌き、有無を言わさぬものがある。ピアの胸中でかすかな恐れ、期待と興奮がないまぜになり、身体がぞくり疼いた。

 彼は質問には答えず、先ほどまで愛撫していた秘裂のさらに下のすぼまりに口付けた。何をしているのか。まさかという混乱と、恥辱に慌てて体を捩り、押さえつけられた唇から逃げようとする。だが、ガッチリと脚を押さえ込まれて無理だった。口付けられた場所に、今度はねっとりと舌が這いまわり、ピアはその濡れた感触に一瞬息を詰まらせた。

「そこは……! 汚いですから!」

 一旦愛撫が止み、ジュリアスが慈しみと蔑みの顔で薄く笑う。

「汚くないよ。大好きな君の隅々まで知りたいと思う僕の気持ちを受け入れてくれ。ああ、そいつもここも可愛がったのか?」

 声に責めるような響きが聞こえ、彼女は慌てて「いいえ」と首を左右に振った。

「よかった。じゃあ、たっぷりここを味わわせてもらうよ」

「そんな……っ、だめ……っ」

 拒絶の言葉も虚しく、ジュリアスはかまわず媚穴の窄まりに舌を使ってきた。時間をかけて丹念に舐めまわされていると、抵抗しようと強張っていた脚から力が抜けていく。

 ジュリアスは、ピアがぐったりと従順になったのを見計らって再び花芯を指先で優しく転がし、愛撫を加えた。

「あ、両方……だめ………っ」

 峻烈な刺激が身体を突き抜け、腰が跳ね上がる。それでも彼は顔を脚の間に深く埋め、逃がさぬとばかりにひくひくと息吹く窄まりに舌を差し込んできた。

「ああっ、中……っ、や……恥ずかしい……っ」

 ほとんど悲鳴に近い声が出てしまい、さらに体が火照り出す。 

「恥ずかしがる必要はないよ。君の全ては僕のものなのだから」

 再び舌を挿し入れ、押し広げるようにして中をまさぐる。今までにない愛撫に目の奥が揺らぎ、甘美な波がさざめく。とめどなく溢れる蜜が彼の愛撫している場所へ流れ落ちる感触がまた彼女を辱め、興奮を募らせた。張り詰めた乳首がジンジンと熱く疼いている。

「お願い……も、やめて……」

 彼の独占欲を煽った自分が悪い。しかし、まさか彼の嫉妬がここまで彼を突き動かすとは思いもよらなかった。嬉しく思うも、これ以上恥ずかしい場所を刺激され続け、未知の快感に自分が壊れてしまうのではないかという不安がよぎり、彼女は涙声で訴えた。

「どうして? 君の可愛い蕾は喜びでぷっくり膨れているし、蜜はどんどん溢れているのに? 体は喜んでいるのに、なぜやめなくてはいけない?」

「そ、そんな……」

 凄まじい快感に、壊れそうになるからです

 自分のはしたない部分が引きずり出されて行く。暴きだされて行く。

 彼は指をとぷりと泉に浸し、濡れて銀糸を引く指先をこれ見よがしにねっとりと舐めた。十分に感じている証拠を見せつけられた彼女は、諦めたように目を閉じた。再び秘穴に容赦なく舌が挿入される。時間をかけて舐められたそこは、ほころび、舌はさらに奥まで入ってきた。

「ひ……うっ……んっ」

 押し出された声に、喜びが混じる。キュッと秘穴がすぼまり、ジュリアスの舌を締め付けた。それでも舌は生き物のように蠢き、粘膜を満遍なく刺激してくる。だんだん愛撫に慣れた媚穴の緊張が解けてくると、彼の舌使いが変化した。舌を尖らせ、ねじ込み、素早い抽送を繰り返す。

「んっ、ああっ、お尻……すごいの……ぉ……っ」

 ピアはシーツに指を食い込ませ、声を震わせた。溢れた蜜が舌を濡らし、ねちねちと水音を立てる。

「あ、も……イッちゃう……!」

 その途端、舌が抜かれ、花芯を扱いていた指の動きが止まった。

「ど……どうして?」

 浅い呼吸を繰り返しながら、愕然としてジュリアスを見た。彼は残念そうに眉尻を下げ、諭すように言った。

「これはお仕置きだからね。そう簡単にイかせないよ」

「お仕置きって……」

「だって、ピアは僕にあいつのことを黙っていた。ばれなければ、ずっと言わないつもりだったでしょう? ピアと僕との間で……そういうのはとても気分が悪いな」

「それは……っ」

 ジュリアスが知る必要もないし、そもそも自分のような期間限定の家庭教師の過去など、彼が気にすることではないはずだ。だが、今、嫉妬と欲情に理性を完全に奪われている彼にはそんな言い訳は通用しないだろう。

 それに、先ほど告白したピアを許してくれたのではなかったのか?

 (それを蒸し返して、こんな辱めを受けなくてはならないなんて……理不尽だわ)

 そんな思いが脳裏をかすめたが、指先で軽く花芯を転がされると、たちまち甘美な官能の蔦に思考も身体も絡みとられた。

「我慢した方が、気持ち良さひとしおだしね」

 クスッと鼻で笑い、再び舌を秘裂に埋め込んでくる。蕾への愛撫も、触れるか触れないかの繊細な指遣いで、決して強い刺激は与えてこない。その焦らしの愛撫に、快感は体内でくすぶるだけで燃え上がることができない。

「も……、イかせて……っ」

 ピアは喘ぎ、体を悶えさせて哀願した。

「仕方がないな……。でも、また僕に嘘をついたり、大事なことを黙っていたら、お仕置きだからね」

 すっかり濡れそぼった秘裂に限界まで舌を差し入れ、大胆に蠢かしてくる。ゆったりと花芯を転がしていた指先は、絶妙な力加減で根元を扱き始めた。集中して責められ、彼女は一気に高みへと突き上げた。

「はあっ、あああ、はあああーーっ!」

 艶めいた声を発しながら、反らした体が震える。その間も、ジュリアスは決して愛撫をやめようとはしなかった。切なげな声を漏らし、何度かの絶頂の後にやっと現実に戻る。そうしてジュリアスは、ぐったりとしたピアの身体からようやく顔を上げた。

「すごく感じてたね。まだ蜜が溢れてくる……」

 彼は、まだ脚の間に跪きながらも、優しく脚を撫でていた手で彼女の泉をくすぐった。

「ひどいです。ここまでしなくても……」

「でも、感じてくれたでしょう?」

 ピアは顔を紅潮させつつ「とっても」と頷くと、彼は満面の笑みを浮かべた。

「でも、まだお仕置きは終わっていないよ」

 冗談めかして言い、ジュリアスはベッドに座ると、ピアを抱き起こして乱れていた夜着をするりと剥くと、自分も全裸になって、彼女を膝の上に向かい合わせに座らせた。

「今度はピアが僕を気持ちよくしてくれる番だ。ピアの感じている顔を見ていたら、もうこんなになって……苦しいよ。ね?……」

 甘えるように顔を覗き込まれ、柔らかくキスをされると胸がたちまちときめく。屹立ははち切れんばかりに漲り、ほとんど下腹につくくらい反り返っていた。

 少年の顔で誘惑し、逞しい牡の武器で襲いかかる。

 最近、ジュリアスはこうして少年と男の顔を巧みに使い分けてピアを翻弄する。それをわかっていても、彼に求められているのだと思うと、つい己を失ってしまう。それだけ、ピアはジュリアスにすっかり溺れてしまっていた。

しかし、そんな彼女でも彼の願いとはいえ、自ら積極的に動くことは躊躇われた。

「く、苦しいのですよね……? こんなになって……」

 自分を納得させるようにつぶやくが、彼にはお見通しだったらしい。「そうだよ」と口角を上げ、さらに「早く……して」と囁きながら腰を揺らした。

「んっ……」

 膨らんだ花芯をくちゅっと擦られ、旋律が背中を駆ける。

「では……失礼します」ピアは少し腰を浮かせ、彼の剛直に指を添えて秘裂に宛てがった。

「あの、上手ではないかも……気持ちよくないかもしれません……っふ」

 片手をジュリアスの固い胸に置いて体を支え、ぎこちなく腰を落した。たちまちじわりと中に染み渡っていく熱に、語尾が震えてしまう。

「気持ちよくないわけがない……。もう、ピアの中に入っただけでこんなに幸せなのに」

 感嘆のため息交じりにつぶやき、彼は彼女を熱っぽく見つめた。それだけで心も、彼を包んでいる下腹もキュンキュンと戦慄いた。腰を落としきり、圧倒的な充足感に細い息を吐く。先端は最奥を押し上げ、みっちりと埋まった彼の昂りからは強い脈動が伝わった。

「でも、この幸せを味わったのは僕だけじゃないんだね……」

 彼は苦しげに眉を寄せ、低く言った。

「その男とも、こんな風にしたのか?」

 きっと、嘘は通用しない。ジュリアスは自分の心も身体もすっかり奪ってしまったのだから。

「ええ……」

「そう……」

 彼は目を落とした。だが、すぐに強い眼差しで彼女を見据えた。

「決めた。僕はその人に勝って見みせる。これからもピアが彼を忘れるくらい気持ちよくさせて、心にも体にも僕の全てを刻み込む……いいね?」

 そう宣言し、ピアが脚に置いていた手を取って自分の肩にかけさせた。そして背に手を添えて腰をゆったりと前後させ始めた。くちゅり、と結合部が音を立て、擦られた隘路から甘い刺激が染み広がる。

「ん……っ」

「どう?」

 彼は、ゆるく反り返った彼女の背を撫で、差し出された乳房の間に顔を埋めながら聞いてきた。胸の盛り上がりを優しく吸われて、うっとりと瞼を閉じる。

「はい……気持ち、いいです」

「嬉しいよ。じゃあ、もっと気持ちよくならないと……僕のことだけを考えるんだ、ピア」

 前後に大きく動いていた腰が、丸く円を描く。さらに違う場所を刺激され、彼女は彼にしがみつくようにして、首元に顔を埋めた。ラベンダー石鹸と若い汗の匂いが彼女の性感を刺激し、体を包み込んで意識さえも支配する。今だけは彼のもので、彼からは逃げられないという諦めが彼女の心を解放し、恥じらいを忘れさせた。度重なる情交ですっかり快楽に貪欲になった体は、彼の動きに合わせて揺れ、さらなる刺激を自ら追い始める。

「あの……すごく気持ちいい……です。ジュリアス様が……私の中に、いっぱいで」

 感じる場所を幾度となく擦られ、再び素直な言葉が口から漏れる。腰の動きを止め、ジュリアスは嬉しそうに微笑む。

「本当? 僕も……。ピアの中、熱くて、柔らかく締め付けて……最高だ」

 体に回された腕に力がこもる。昂りが一層膨らんだ気がした。

「では、昔の男のことなんか忘れてくれるね? ピアには僕だけだね?」

 切なげに見つめられ、胸がキリリと締め付けられる。

「わ、私は……」

「ごめんね、困らせて。でも、僕にはピアしかいないんだ」

 ジュリアスの思いが手に取るように伝わり、心が満たされる。

「僕と、その男とどっちがいい?」

 再び強く腰を繰り出したジュリアスに、乱れ始めた吐息交じりに囁かれて言葉に詰まる。

「そ、それは……比べられません」

「つまり、僕はまだまだ、ってことだね……」

 煮え切らないピアの言葉にプライドが傷つけられたのだろう。語気を強め、腰遣いが俄然荒くなった。

「あ、ああっ……はあんっ」

 鋭い腰の動きが、隘路を容赦なく責め立てる。

「これでも、まだ比べられない?」

 形の良い唇が、愉悦と自嘲の笑みで歪む。しかし、欲望を湛えた瞳は彼女からひと時も離されず、ピアはその独占欲の強さを改めて感じて肌を粟立たせた。

「ど、どうしてそんな……ふうに、んっ……あんっ」

「僕がどれだけその男に嫉妬してるか、ふしだらなピア先生にはこれくらいしないとわからないでしょう?」

 苛立ちを隠そうともせずに吐き捨て、すぐに唇を重ねる。キスをしながらも力強い腰つきで彼女を翻弄しつつ、貪欲に唇を吸い、くちゅくちゅと舌を絡ませては吸ってくる。

(その嫉妬心は嬉しいけれど、わかればわかるほど、ただ苦しいだけなんです……)

 口と隘路を塞がれながら強引に流し込まれる快感を、胸が締め付ける思いで受け止めた。それでもそのひたむきなキスに答えようと、彼女も必死で舌を絡め、こすり合せる。あまりの刺激の強さに目眩がし、頭の芯がじんと痺れた。

「……キスも、その男が教えたんだね? そうだよね。思えば最初からあんな気持ちのいいキス、できないよね……」

 ジュリアスは一旦唇を離して言った。彼の目を直視することができず、目を伏せて切なさに声を震わせた。

「あの人のことを言うのはやめてください……。忘れさせてくれるのではなかったのですか」

 我に返ったように、相手が息を呑んだ。しっかりと頷き、再び強く腰を掴むと前後に揺らしてくる。そこへ激しい突き上げが襲いかかった。溢れ、広がった愛液が二人の内腿を濡らしていく。一番感じるところを、鋼のような昂りが連続して刺激し、ピアは彼の首にしがみついた。

「あの……私、比べてませんから……。私にはジュリアス様だけ……です。本当に……」

「では、僕を愛していると言って。僕だけを」

 それだけはままならない。ピアが唇を噛んでいると、ジュリアスはその心を読んだかのか、そんなピアを責めるように同じ場所に猛然と抽送を繰り返した。繊細な指が、揺れる双乳を鷲掴み、揉みしだく。獰猛ささえ感じる荒い手つきに快楽が一気に開花し、ピアは頭をのけぞらせた。栗色の髪が背中で踊る。いきなり、硬く充血した先端がキュッと摘まれ、捻られた。

「ああっ……」

 峻烈な刺激が四肢を走り抜ける。彼女はジュリアスにしがみついたまま全身を小さく痙攣させ、一気に昇りつめた。

 ジュリアスはまだ左右両方の蕾をつまみながら、ベッドの反動を利用して腰を突き上げてくる。

「も……壊れ、ちゃう……」

 ピアが達したのは、ジュリアスにはわかっているはずなのに、彼は動き続けている。まだ絶頂の余韻にたゆたう体は、断続的な怒張の責めによって再び官能の期待にざわめき始めていた。熱く蕩けた隘路が硬いペニスに擦られるたび、快感が倍増して全身に愉悦の波紋を幾重にも広げる。

「だめ……気持ち、いいの……ぉ、だめ……も……ジュリアス、さま……」

 さらにジュリアスは、胸に凭れかかっている彼女のヒップを掴むとぐっと押さえつけた。たちまち、最奥を殴打され、壮絶な快感が送り込まれる。

「ああ、いいっ……ああ、……ジュリアスさまっ……そこ……そこ……っ」

 腰はすべての快感を貪ろうと、無意識に動いてしまう。

「ああっ、ピア、それ……そんな……」

 ジュリアスもまた律動を速める。汗に濡れた額には前髪が張り付いているが、それを払おうともせずに屹立を猛然と叩き込んだ。ぬち、ぬち、ぬちっと淫猥な水音に、二人の喘ぎと荒い息遣いが混じる。

「んっ、出すよ……。ピア、受け止めて……」

 強く突き上げられた直後、精が熱くほとばしる。

「ああっ……」

 まばゆい光がピアを包み込み、全身がふわりと浮かぶ錯覚にとらわれてジュリアスの背中に爪を立た。

 どくどくと隘路へ放たれる熱が沁み入る快感に、ピアはジュリアスのものだと自覚させられる。愛され、支配される喜びが胸を埋め尽くし、彼女は心ゆくまで快楽に陶酔した。

(こんなにたくさん注がれて……。もし、避妊に気をつけていなければ、きっと身ごもっていた……)

 禁忌の妄想に背筋が震えた。

(子が宿れば、ジュリアス様と一緒になれるかもしれない……)

 だが、すぐにその考えを打ち消す。そして、彼の弱みにつけ込むようなことを一瞬でも考えた自分を恥じた。

「ああ、ピア……、愛してる……」

 快感に震えるジュリアスの声が耳に優しく響く。

(たとえかりそめでも、ジュリアス様が幸せならそれでいいの……)

 ピアは胸中で届かぬ声をつぶやき、まだ治らぬ彼の欲望を受け入れるため、ゆるりと体を揺らした。

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