蜜は愛より出でて愛より甘し Epilogue

 夫婦の寝室のドアを閉め、正装である深紅の軍服に身を包んだジュリアスはベッドへ歩み寄ると、そこに横たわるピアの裸体を静かに見下ろした。

 股間を隠すように置かれた手を取り、身を屈めながら自分の唇へと掲げてキスをする。とりわけ、左手の薬指に光る指輪の上で、唇は長くとどまった。その仕草は、初夜を迎える夫婦にしてごく自然なようだが、ただ一つ、異色であるのはピアの手首が革の拘束具で一つにまとめられていることだった。

「結婚式は楽しかったか?」

 欲望の宿る灰緑色の瞳に見つめられると、たちまちピアの体の奥が疼き始めた。

「はい……」

 昼間は大聖堂で挙式をし、次期国王と王妃を祝う国民の間をパレードし、夜は花火がいくつも打ち上げられ、人々を楽しませた。舞踏会はまるでおとぎ話のように艶やかで、たくさんの人々の祝福に包まれながらピアはジュリアスとはもちろん、他国の国王や王子達にダンスを次々と申し込まれ、美しい音楽の旋律にのせられて夜通し踊りっぱなしだった。

 しかし、不思議なことに全く疲れていない。むしろこれからはジュリアスの妻として本当の宴が始まるのだと思うと、むしろ体が疼いていた。今この時も、正装によって普段よりもずっと大人びて見えるジュリアスに熱っぽく見つめられ、ときめきに胸が震えていた。

 ジュリアスは彼女の手を戻して「それは良かった」と、額にキスをした。その時、彼の背後で微かな衣擦れの音がした。

「花嫁の夜着を脱ぐお楽しみを取っておいた方がよろしかったですか? 殿下。お手を煩わせないように先に私が脱がせてしまいましたが」

 部屋の隅の暗がりから、アンソニーが暖炉の光の中に姿を現す。

「ああ、構わない。君が初夜の付添人を受け入れてくれたことに感謝する。アグロン王国の新文官長、テンハーゲン殿」

「こちらこそ、光栄の賜りです」

 アンソニーはジュリアスの隣に立つと、持っていた黒の短鞭を手渡した。それは以前、ピアがジュリアスにプレゼントしたものだった。

「これは?」

「花嫁を躾けるものでございます。殊の外、王妃はこれがお好きなようで、ぜひ殿下にも試していただきたいと思いまして、この初夜のためにご用意させていただきました」

 アンソニーが革の拘束具に指先で触れる。直接触れていないのに、そこからすでに相手の熱が伝わってくるような気がした。

(私は二人のなすがまま……)

 そう思うと、彼らの愛撫の感触が肌に蘇り、一気に体が火照り出す。

 ピアが二人のものになるという密約が結ばれたあの夜以来、繰り返しアンソニーやジュリアスによって心身ともに深く植え付けられた快感は、彼らの思わせぶりな態度や言葉に過敏に反応し、たやすく期待に劣情の蕾を膨らませてしまうのだ。

「本当に君は気がきくね、テンハーゲン。彼女が拘束や鞭を好むとは知らなかった。……しかし、いい眺めだな」

「ただ、ただ殿下と王妃のためを思ってのことでございます。もう少し早く明かしても良かったのですが、初夜の余興に格好ではと思い、今まで秘密にしていました」

 礼をし、アンソニーは目に微笑をたたえてピアを見下ろした。その瞳に浮かんだものから、これから起こる全てのことを読むと、ピアの肌がたちまち興奮に粟立つ。

 アンソニーとジュリアス。それぞれに違う美麗さと、言葉にできない妖艶さ、そして同時に威厳をまとった男たちから見下ろされ、ピアはすでに全てを彼らに捧げていた。捧げられることに感謝さえしていた。

 ジュリアスは試すように、黒くてしなやかな鞭を何度か振った。鞭の先がヒュン、ヒュンと空気を切り裂く鋭い音が、すでにピアを追い詰める。

「やめて……お願い、許して……」

 その道具が壮絶な快楽を約束しているとわかっていても、やはりそこまでの過程である痛みを避ける道はない。ピアは反射的に体を縮こませたが、すぐにアンソニーに手首を掴まれ、頭上で固定されてしまった。乳房も股間も露わになり、すっかり無防備な姿が晒された。

「どうぞ、ご遠慮なくお始めください」

「そうだな……」

 アンソニーが促すと、ごくり、とジュリアスが喉を鳴らすのが聞こえた。

 彼はまず鞭の先を、胸の膨らみの柔らかな曲線に沿ってゆっくりと巡らせた。そんな微かな刺激にも、愉悦の兆しがゾクゾクと背筋を這い上ってゆく。

「やあっ……」

 すでにその先を求めてくねり始めた体に、ねっとりと二人の視線が絡みつくのが嫌という程わかる。視線での愛撫に体はさらに昂り、奥から熱がじわりと広がっていく。ジュリアスは鞭をもどかしいほどゆっくりと動かしている。それは肌の上をさまよって、やがて胸の頂へと向かっていった。

「あ……だ、だめ」

 平たい革がとうとう小さな蕾を撫でた。その一点で快感が発芽し、蕾は一気に膨らんだ。

「ふふ、もう反応してる。可愛いな……」

 ジュリアスはそのまま二つの蕾を交互にこすり立てた。その、焦らすような緩やかな動きの下で、ピアは身体を絶えず震わせる。そうして彼はしばらく鞭の先で胸や下腹をくすぐっていたが、それは明らかに彼の、ピアを打つことへのためらいだった。その気持ちを読んだのだろう、不意にアンソニーが「失礼します」と断り、その手から鞭を取った。

「殿下、そのように王妃をあまり焦らすのも酷というものです。もっとも……それも快楽につながるエッセンスではありますが」

 アンソニーは口角を上げてチラとピアを見た。いよいよ始まる快感の予兆に、ピアは無意識に腿を擦り合わせる。

「僭越ながら、まず私が正しい打ち方を披露させていただきます」

 直後、鞭が振り下ろされ、ピアの腹部に熱が散った。

「ぁう……んっ」

 びくんと身体を弾かせたピアだが、漏れた声は甘い響きを含んでいた。

「そうです、手はそのままですよ、王妃様。きちんと教えを守っておられて、立派です」

 そして、また一打、もう一打、さらに一打。軽快で、鋭い打擲が、霰のように次々と乳房や腹や腿に襲いかかる。途中、アンソニーは鞭をジュリアスに返した。

「思い切り打つのではなく、肌の上で溜めるようにし、その音を楽しんでください。この音が、打たれる屈辱と恥辱を喚起し、彼女はますます殿下に従順になっていくのです。それでも喜んでいるのですから、幸せなことです。顔を見るのがお辛いなら、こうしてうつ伏せにしてしまえばいいでしょう」

 アンソニーがピアの体をそっと反転させた。

「そうか、喜んでいるのか。では、遠慮はいらんな」

 ジュリアスは呟き、続けざまに鞭を背中に、丸いヒップに幾度となく打ち下ろした。

「あ、や……、あっ、あ……ぁ、あっ……」 

 新たな刺激に身体を悶えさせながらピアは呻く。だがその声は、次第に甘い喘ぎに変化していった。

「殿下、王妃様をご覧ください。こんなに恍惚として、美しさがさらに増して妖艶ではありませんか」

 アンソニーが再び彼女を仰向けにし、ジュリアスは手を止めてピアを見下ろした。二人の男に欲望を宿した目で見つめられながら、ピアはジンジンと身体中を蝕む痺れと快感に胸を喘がせていた。

「お前のいう通りだな。瞳が潤み、肌がバラ色に染まり……本当に私の妻は美しい」

 ジュリアスは身を屈め、顎から耳へと熱いキスの跡をつけていった。

「しかし、この王妃様はなかなか欲張りで、もっと強い刺激を求めているのです。その証拠に……」

 アンソニーはジュリアスにベッドの足元へ行くように促し、ピアの膝に触れて「脚を開くのだ」と短く命じた。 

 ピアは素直に両脚をいっぱいに広げていく。ジュリアスの立つ場所からだと、奥に息吹く秘園が丸見えだった。

「ああ、すごい……これだけ打たれて濡らしたというのか?」

 ジュリアスがしとどに濡れる泉を目の前に、感嘆のため息をついた。

「やめて……」

 ジュリアスが鞭の先で柔らかく、濡れた花弁をくすぐると、欲望を湛えた泉がこぷりと蜜を溢れさせる。

「本来なら、ここも打擲するとさらに快感を得るのですが、初夜ですし、王妃様はすでに殿下と一つにおなりになることをおのぞみかと思います。この濡れ具合からしても、この蕾の膨れ具合を見ても」

 アンソニーがいきなり片手でクリトリスの皮を剥き、もう一方の手指で充血して張り詰めたそれを撫で上げた。

「ひあああん!」

 身体を貫いた壮絶な刺激に、恥ずかしいほどの嬌声が上がり、腰が跳ねた。

「ああ、もうイってしまいましたね。全く敏感な王妃様だ。では、殿下、このようにすっかり準備ができておりますので、初夜を存分にお楽しみください」

「手を煩わせたな。もちろん、君も僕と一緒に彼女をたっぷり可愛がってくれるね? なにしろ特別な夜なのだから……」

「御意。それはもう。この上なき光栄でございます」 

 深々と礼をし、アンソニーはジュリアスの軍服を脱がせて全裸にしていった。現れた彼のペニスは、すでに下腹につくほど反り返り、強く脈動している。ジュリアスはベッドに上がると、ピアの広げた脚の間に収まり、熱い切っ先を泉にあてがった。

「君が僕のものになって、僕は心底幸せだよ。ピアは?」

「わ、私も幸せです」

「良かった。君は本当に素直で可愛いね。で、そんなピアは何が欲しいの? 君の望むものは全てあげるよ」

 ジュリアスは花弁の間で先端を軽く前後させる。彼を求めて隘路がキュンキュンと蠢き、ピアは哀願の瞳でジュリアスを見上げた。だが、彼は静かに微笑し、じっと答えを待っている。

「そこで焦らすとは、殿下も無慈悲な方ですな。ほら、王妃様も早く言わないと、殿下はやめてしまいますよ」

 自らも全裸になったアンソニーがピアの横に陣取り、髪を撫でながらい薄く笑った。

 打擲に呼び起こされた欲望が身体中で暴れて苦しい。ピアはとうとう腰を揺らして催促した。

「ジュ……ジュリアス様が欲しいです、ジュリアス様の、大きなものが……いっぱい、欲しい、です」

 直後、ジュリアスが腰を繰り出しじゅぶ、と灼熱の屹立がピアを深々と貫いた。

「あふっ……」

 一気に身体に打ち響く快感に、ピアは再び達してしまう。そのままズンズンと続けざまに突き上げられ、あまりの悦楽に嬌声を上げた。

「あん、あっ、気持ちいい……、あ、あっ、あんっ、奥っ……や……」

「ピアは本当にこれが好きなんだね。深く咥えこんで……きつくしゃぶって」

 彼は嬉しそうに言い、腰を両手で掴んだまま、さらに抽送を加速させる。

 気持ち良すぎておかしくなりそうだった。鞭で打たれ、痛みや侮辱に耐えたぶんだけ、その後に与えられる快感は絶大だった。打たれた身体のあちこちにまだ熱がくすぶっているが、それはジュリアスに刻み込まれる甘美な刺激と混じり合い、次々に愉悦の花を咲かせていく。

 一方のアンソニーは、奔放に揺れるピアの乳房を横から両手で包み、捏ね始めた。

「この乳房は本当によく熟したな。そして、この蕾も。行為を知ったばかりの頃は、ただ硬くて縮こまっていたが、今はすぐに大きくなって、ぷりぷりとこの通り、食べてくれと言わんばかりに色づいている」

 先をぎゅっとつままれ、鋭い感覚が、貫かれている下腹の刺激と共に身体中を走り抜けた。

「感度も良くなるばかりで、すぐに硬くなる。さて、味の方はどうかな」

 アンソニーは片方の乳首に舌先で触れ、転がしては歯を立てた。先ほど打たれ続け、痺れていた蕾を癒すように、濡れた舌が優しく転がし、ちろちろとしごき上げる。蜜路を穿たれる刺激とはまた違う甘美な感覚に包まれ、ピアの身体はさらに蕩けた。アンソニーは片手で乳房を愛撫し、もう片方の手をジュリアスと繋がっている股間へと伸ばしてくる。すぐに茂みの奥の淫芽を探り出し、指先でくにくにと転がした。

「あああっ! ああ……それ、だめえっ…………おかしくなる……っ」

 三箇所を同時に責められ、えも言われぬ快感が全身に襲いかかる。アンソニーに蕾を吸われながらピアが身体を盛んに捩らせると、ジュリアスが困ったように微笑んだ。

「そんなに腰を動かすと、僕持たないよ……すごく中がうねって……ああ、ピア、君は本当にいやらしくて、可愛い」 

 アンソニーが胸から顔を上げて喉の奥で小さく笑った。

「殿下。王妃様がこれほど淫らになってしまったのは、元はと言えば私の責任ですね。申し訳ございません」

 それを聞いてジュリアスは動きを緩めた。

「いや、感謝している。もっとも、彼女が求めるままに与え、甘やかしすぎた暁にこれほど我儘な身体になったのは私の責任でもあるし……だから我々は、これからもずっと二人で彼女を気持ちよくさせてあげなくてはね」

「おっしゃる通りですな。それでしたら、体位を変えましょうか。我々を同時に味わえるように」

 ジュリアスはすでに合点しているように、ぐったりとしているピアから己を抜いて自分が仰向けになった。アンソニーは、ピアを抱き上げ、ジュリアスに背を向けるように、その上に跨がせた。ジュリアスが両手で腰を支え、すかさず蜜の滴る秘裂を新たに突き上げてきた。

「あ……くうっ」

 今までとは違う場所をこすられ、峻烈な刺激が背筋を駆け上った。

 ジュリアスでいっぱいに押し広げられた隘路が火照り、収縮し、絶頂の予感がピアの全身を飲み込んでいく。彼はがっちりとピアの腰を支えたまま、貪るように下から激しく蜜路を貫いた。じゅぷじゅぷと淫らな音と男女の乱れる吐息が、初夜の部屋に響き渡る。

「では、王妃様。失礼致します」

 ジュリアスの脚を跨いでピアの正面に仁王立ちになったアンソニーが、喘ぎ続けているピアの口に屹立を挿入した。ジュリアスとの性行為を見て興奮したのか、彼のものはまた一層大きくなってピアの口内を満たした。それが喉の奥に達しても、全てを含むことができず、苦しい。

 だが、昔から馴染んだその硬さと熱、味がとても愛おしい。ピアの身体の奥底で新たな渇望が呼び起こされ、ピアは口の中で膨らむペニスに必死で舌を這わせて、粘膜をこする感触に陶酔した。

「ああ、素晴らしいです……王妃様」

 ピアの頭を押さえつけ、アンソニーがため息を漏らす。彼も感じてくれている。そう思うとピアの愛撫に一層熱が入る。唇をすぼめたまま、頭を上下に揺らして屹立をしごき、混じり合った体液ごとしゃぶり上げる。

 下から突き上げられているので、うっかりするとペニスが口から出てしまいそうになるが、アンソニーの下腹に、拘束された両手を添えて一心に愛撫した。

「ピア、しゃぶりながら興奮してるでしょ。すごく中がビクビクして、トロトロで。こうしたらどうなるかな……」

 ジュリアスはそう言って、前に片手を回し、クリトリスを指で責め始めた。

「ああああっ」

 稲妻が身体を貫き、ピアは頭をのけぞらせた。

「おっと……、誰が止めていいといった」

 アンソニーが再び頭を引き寄せ、ペニスを咥えさせる。

「すごい、今のですごく締まった……中がとてもうねってる……」

 ジュリアスは陶酔を声に滲ませて、今度は股間を押し付けたまま、最奥をかき混ぜるようにピアの腰を前後させた。

 ピアはとうに理性を手放していた。二人に愛され、狂おしいほどの性感をこれでもかと送り込まれて、愉悦は天井知らずに増幅するばかりだった。それまで散々高められていたこともあって、いくらも経たないうちに、大きな喜悦へと繋がる予兆が沸き起こってきた。拘束されて、上も下も自由を奪われ、さらにクリトリスを刺激された身体に狂おしいまでの愉悦が打ち寄せる。その上、アンソニーが乳房を揉みしだき、乳首を捻りあげると、ピアは喉を犯されたまま、何度も何度も高みへ駆け上った。

 間も無く、二人の低い呻きを聞きながら熱い飛沫を同時に流し込まれ、目の奥で閃光を見たと思った瞬間、意識を失った。

 翌朝目覚めたピアは、朝日で白く光り輝く窓際に、アンソニーが座っているのに気づいた。

 きちんと王宮文官の制服に身を包んだ彼は、肘掛け椅子に深く腰掛け、じっとピアを見つめていた。光に包まれた彼は、普段と変わらず美しく、穏やかで、神々しい。

 ピアは二、三度瞬きをして、自分が夫婦の寝室にいるのだと思い出した。少し開いた窓から、鳥のさえずりが聞こえてきた。

 まだ体がだるい。二人から夜通し愛されるのは初めてではない。だが、初夜で気持ちが高ぶっていたのか、特にジュリアスは覚えたばかりの鞭を使ったり、拘束具で自由を奪ったりしてはピアを散々辱めた。最後の記憶は、四つん這いにされ、二人に前後から貫かれたところで消えている。

「おはようございます。王妃様、ご気分はいかがです?」

 ゆっくりと近寄ってきたアンソニーはベッドの端に座り、窺ってくる。

「もうピアって呼んでくれないの?」

 シーツに包まったまま見上げると、アンソニーは隣に横たわり、ピアの裸の肩を指先でなぞった。 

「そうだな。二人きりの時はそれでもいいかな」

 二人見つめあい、いたずらな笑みを交わし合う。

「殿下は公用で大臣と面談に行ったよ。どうする? 風呂の後、すぐに朝食にするか? それなら用意させてこよう」

 起き上がりかけた彼の袖を、慌ててピアはつまんだ。

「アンソニー……」

 言い淀んでいると、たちまち彼の表情が曇る。

「どうした? どこか痛むのか? 昨夜の殿下は少し度が……」

 ピアは言葉を遮るように慌てて首を振った。

「そうじゃないの。あの……、いきなりだけど……赤ちゃんができたら、あなたもその子を愛してくれる?」

 ホッと小さな息を吐き、アンソニーの顔が明るくなる。

「もちろんだ。だってその子は……」言いかけ、軽くかぶりを振ってピアに微笑した。「自分の子のように愛するさ。男の子でも、女の子でも一国一城の主人になる子だ。君も、子供も一生幸せにし続ける。きっと、僕たちの子は国民を大切にし、戦争などせず、国を治める立派な者になるだろう」

「……嬉しい」

 アンソニーの言葉に胸を熱くし、ピアが彼の胸に額を擦り付けると、彼は片手で顎を掴んで彼女を静かに見つめた。ピアも、そのはしばみ色の瞳に映る自分を見つめていたが、一瞬、それが別の誰かのような気がした。そして彼は顎から手を離し、優しくピアの頰を撫でた。顔が近づいて、瞳の中のピアが消える。

「全く、君との出会いは運命としか言いようがないな」

 そう囁くとアンソニーは覆いかぶさり、優しく唇を重ねてきた。

                            【完】

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