蜜は愛より出でて愛より甘し 1

 書斎の両開きの窓から午後の眩しい光が降り注ぎ、若草色の壁紙と壁と本棚を鈍く輝かせていた。屋敷全体がしんと静まりかえり、自分の激しい心音だけが耳にこだましている。

「では、これが最後のレッスンだ」 

 低い声が、授業の開始を告げた。それだけでピアの体は期待に疼いて、呼吸が浅くなる。

「はい……アンソニー先生」  

 返事をしたものの、声はかすれ、指の先は緊張で冷たくなっていた。彼女と向かい合って立つアンソニーが、そっと頰に触れた。ピアがおずおずと目をあげると、相手は柔らかく微笑んだ。

「緊張しすぎだな。初めてのレッスンを思い出すよ」 

 すらりとした長身に、逞しい体つき。彫刻のように彫りの深い目鼻立ちが際立った、ハンサムな面立ち。優しく見下ろす目は明るい茶色で、同じ色の前髪が額の片側に流れている。

「でも……」

「でも、じゃない。ここまで頑張ったのだから、君にはできるはずだよ。……学んだことを全て私に見せてごらん」 

 アンソニーは囁き、頰に添えていた手をピアの胸に伸ばす。ドレス越しに手の熱が伝わり、ピアはハッと息をのんだ。

「ここが、苦しいのではないか? かわいそうに。早く楽にしてあげたいところだが……」  

 思わせぶりな手つきで膨らみを撫で、目を細める。彼がピアの「特別な家庭教師」を引き受けてから、この笑みを見るたびにピアは幾度となく胸を高鳴らせてきた。

(先生は私を試している。私から誘惑しろということなのだわ) 

 相手の意図を知り、頰が熱くなる。さらに腰に手を回されて距離を詰められ、微かな石鹸の香りが混じる男性的なにおいに彼女は陶然とした。

「ほら、もうここが硬くなっている。この三週間、毎日真面目に勉強した成果だな」  

 アンソニーの親指はドレスの上から彼女の胸の頂を捉え、ゆっくりと円を描き始めた。

「あ……っ、先生……」  

 ピアが切なげに眉を寄せる。指の動きは穏やかなのに、そのかすかな刺激にさえ身体に戦慄が走る。

「本当に君は敏感だね。それでも初めはくすぐったがっていただけだったが……」

「先生のおかげです……。先生がきちんと教えてくれたから……」

「ふふ、素直だな。ご褒美をあげたくなる」  

 腰に回されていた手が顎にかけられ、唇に触れるだけのキスをされた。  さらに胸が熱くなり、体の疼きが膨らんだ。アンソニーはピアの顔を覗き込み、囁いた。

 「今までのレッスンの成果を見せてもらおうか。つまり卒業試験だ。君は私がいいと言うまで我慢すること。わかったね? 殿下よりも君が先に気持ち良くなっては本末転倒だからな」

(そうだ。そのために今日まで頑張ってきたのだから……) 

 本来の目的を思い出したピアはアンソニーを見つめ、強く頷いた。 

「はい。お願いします」

「では……ここに座って」 

 近くのソファにピアが座るやいなや、アンソニーは流れるような動作で彼女に覆いかぶさってきた。彼はそのままスカートを引き上げて、むき出しになった左右の太腿を両手で優しく撫で上げる。

 脚を開かせた後、腿に手を這わせつつ、するりと奥へ進ませた指先が熱い泉へゆっくりと潜り込んできた。 もう一方の手は、指を絡ませるようにして、頭上で手を繋がれた。 すでに馴染みのある無骨な指が花弁の間をなめらかに前後し、そこから生じる円やかな性感にピアはうっとりと目を閉じた。さっき、あれだけ緊張していた身体から、するすると力が抜けていく。

「最初は痛がっていたけれど、今は気持ちよくなっているようだね? それでも、やはりきついけれど……」 

 目を開けると、悪戯っぽい笑みと逢う。ピアは恥ずかしさに頬を染めた。「誰でも初めてはそうだって、先生もおっしゃったじゃないですか。きついのもすごくいいって……」 

 アンソニー・テンハーゲンによる、ピアへの「性技のレッスン」が始まったのは三週間ほど前だった。 

 彼は、ピアの父親が大学教授をしていた頃の生徒の一人で、今や文学研究者として若くして身を起こし、その分野で彼の名を知らないものはいない。歳はピアよりも六つ上、三十歳だ。 

 ピアの父親は貴族の三男で、放任主義で育てられて地理学者となった。長年、王族の援助を受けながら、研究のために世界を駆け巡っていた父は、後年、落ち着いて教授の職に就いたのだが、なぜか大学で文学者を志すアンソニーを気に入って頻繁に屋敷に招いては、お茶や食事を振る舞った。

  当時幼かったピアは端麗な面立ちの、豊富な知識でいつも自分を楽しませてくれるこの青年が一目で好きになり、なんとか気を引こうとして父親との会話に無理やり口を挿んだり、勉強を教えてもらう口実で、長々とアンソニーを独り占めしては、悦に入っていたことが度々あった。 

 その父は、ピアが十七歳の時に流行病でこの世を去った。母親も同じくして倒れたが、一命をとりとめたものの、伴侶を亡くした悲しみからすっかり心身ともに弱くなってしまい、この七年間、ピアは母親に代わって屋敷の切り盛りと、妹と弟の面倒をみてきた。 

 貴族といえど、三男の父に与えられた小さな領地からの収入は決して多くはなかった。 屋敷の修繕費や、新しい家禽の購入、使用人への支払いなど、支出は尽きることがない。なるべく母やきょうだいには不自由はさせずに、ピア自身は慎ましやかな暮らしを強いていた。 

 そして今や妹は、花嫁修行のため知り合いの伯爵家へ奉公に出ていたし、学生である弟は一日の大半を大学で過ごしていて、帰っていても自室にこもって論文をまとめたり、勉学に勤しむことが多く、同じ屋根の下で生活しながら、彼らとは何日も顔を合わせないことは珍しくはなかった。 

 優秀な弟は奨学金をもらっているが、妹はどうしても良家に嫁がせたい。可愛らしく、賢い妹を愛し、彼女が愛する男性の元へ嫁ぐのに十分な持参金を持たせるために、ピアは「父のように世界中を旅したい」という夢を捨て、昼は領地の農園で働き、夜はお針子仕事などをして資金を稼いでいた。 

 そんな彼女に希望の光を投げかけたのは、このアグロン王国が出した一通の通達だった。

『アグロン王国王位第一継承者、ジュリアス・ベルウォードの家庭教師を募集する』 

 国中の貴族に届いたそれを、ピアは何度も何度も読んだ。 

 条件は『女性に限り、王家の管理する宮殿に一ヶ月の住み込み。報酬は一ヶ月の給金の他に年金までの生活補償を出す』ということだった。随分大雑把な募集要項だが、選抜は筆記と口頭試験、身体検査と面接なので、結局は王宮のお役人たちのお眼鏡に叶わなければ不合格、ということなのだろう。 

 ピアは誰にも相談せず、内緒で応募した。ほんの少しの希望は倍以上の落胆になる可能性もあったし、いくら不合格前提としても、その通りの結果を受け取ればやはり傷つくし、周りにも気を遣わせたくないと考えたからだった。 しかし、その予想は意外にも外れ、ピアは一次審査を通過し、最終面接を受けると、その一週間後に採用通知を受け取った。 

 だが、ピアが王宮からの採用通知を母親に見せたとき、彼女の、普段から白い顔は蒼白になった。 

 それというのも、殿下付きの『家庭教師』とは、勉強はもちろんのこと、彼の身の回りの世話を兼ねた、つまり閨の指導の一切までもを含んでいたからだった。それを聞かされたピアが、今度は目眩を覚える番だった。 

 これまでの男性との付き合いは、夜会でダンスをしたり、挨拶や親愛のキスを頰に受けたのがせいぜいだ。そんなピアが熟れた女性として殿下に一体何を教えられるのか。恥知らずにもほどがある。飛んだお笑いぐさだ。

『こんな通達はもう何年もなかったこと。あなたが知らずとも仕方ありません。でも、お勤めを満足にできずに王室から解雇された場合、あなたは社交界で恥をかいてしまうわ。可愛いピア、何か良い案があればいいのだけど……』  

 母親はそう言ったが、自分が恥をかくことは、家名を汚すことでもある。 家計ばかりか心の余裕も無くし、深く考えずに王族の職に飛びついた浅はかな自分が恥ずかしかった。母に心配をかけ、抱えた荷の重さを考えて、採用を辞退することも考えた。 

 そんな時だった。父の教え子であったアンソニー・テンハーゲンがブランシェ家を訪れたのは。 

 今では隣国の王立大学で教鞭を振るっている彼が、今回アグロン王国で開かれた学会に出席したその足で、久々にブランシェ家に立ち寄ったという。『奥様とお嬢様にどうしてもお会いしたく』突然の訪問を詫びながら、玄関のポーチに佇む彼の姿にピアの視線は釘付けになった。

 何年振りだろう。もともと端正な面立ちではあったが、あの頃まとっていたどこか剣呑な雰囲気は悠然なものに変わり、甘さがそぎ落とされた彫りの深い顔にはどこか危険な香りも漂っていた。学生の頃は後ろで一つにまとめていた赤みがかった栗色の髪は、襟足をやっと隠すくらいに短くなっている。 背が高く、肩幅は記憶よりもさらに広く逞しくなっているが、余分な肉は一切ついていない。

 我を忘れて見惚れていたピアだったが、彼のはしばみ色の瞳が自分にじっと注がれているのに気がつき、なぜか全身がかっと熱くなった 鼓動が早鐘を打ち、再会の挨拶もそこそこに、夕食に呼ばれるまで自室にこもってしまった。

 そして、その夕餉の席で母親から、アンソニーにピアの「件の大問題」を解決するために協力をお願いしたと聞かされた時には、思わずスープを掬ったスプーンを手に、口をポカンと開けたまま硬直してしまった。『私でよければ、喜んでお嬢様のために尽力しましょう』 

 そう艶然と微笑んだ彼は、田舎に養生に行く母と入れ替わりに、この屋敷にピアの「家庭教師」として屋敷に滞在することになったのだった。

「蜜がどんどん溢れてくるな。ここが君の弱いところだね……」 

 アンソニーの指が花芯を絶妙な加減で円を描くように弄ぶと、峻烈な刺激がを走り抜けていく。 キスの愉悦と指戯の官能が溶けて混ざり合い、ピアはたちまち陶酔する。下腹部に熱いものが集まっていき、ふつふつと湧き立った。

(あ……、気持ちいい……。このままじゃ……だめ……。なんとかしなきゃ)  この瞬間にも陥落しそうな自分に言い聞かせ、彼の猛りに触れていた手を再び動かし始めた。

「ん……んっ……」  

 相手の反応に手ごたえを感じつつ、過去のレッスンを思い出しながら、強張りの曲線を優しくなぞり続ける。

「なるほど、反撃に出るとはなかなかやるな。学んだことを一つ試そうというわけか………なら、これはどうかな」 

 隘路の中で二本の指がピアのもっとも感じるところを捉え、リズミカルに擦り始めた。泉から溢れた愛液がくちゅくちゅと音を立て、どれだけピアが感じているかを無理やり知らされる。

「ダメっ、それだめ……っ、あっ、あんっ……」 

 集中的に一点を攻められるうちに肢体が小刻みにわななき、唇から溢れる声からたちまち余裕が失われた。昇り詰めそうになり、思わずアンソニーのシャツにしがみつくと、指の動きが停止する。

「そんな感じていたらテストにならないな。第一、君ばかり感じていたらお勤めの意味がないじゃないか」

「そんな……」

 涙でぼやけた視界の中で、アンソニーの笑う気配があった。

「では、こっちを試してもらおうか」

  家庭教師はソファの上でおもむろに膝立ちになり、ピアの両手を取って上体を起こす。彼が前をくつろげると、反り返る雄々しい剛直が弾き出て、ピアを挑発するように揺れた。

「教えた通り、できるね?」  

 アンソニーは挑戦的な目で見下ろし、促すように額にキスをする。ピアは彼に目で答えると、幹に両手を添え、全体にキスの雨を降らせてから先端を舌でちろりと撫でた。

「ふっ……」 

 アンソニーが声を詰まらせる。すぐに頭をそっと撫でられ、褒められた嬉しさにピアがうっとりと目を瞑ったところで、頭上から声が降ってきた。

「ピア、このとき気をつけることは?」

「ちゃんと相手を見ること……です」 

 ピアは彼の教えを思い出し、今度は上目遣いで見上げながら舌を亀頭全体に絡ませた。そのまま、なめらかな先端をくるくると舐め回す。

「ああ、いいよ……。君のその潤んだ瞳は瞬く間に男を魅了するよ……」

  髪を揉まれるように愛撫されると、ピアの下腹で切なさと渇望がないまぜになって疼きだす。

(教えてくれた恩を返さなきゃ……。ピアはとても良い生徒だった、って先生が誇りに思うように……)

 顔を倒して、唇で敏感な場所を何度も優しく刺激する。すると砲身は悦びに震え、先端から透明な雫をにじませた。

「そう……そうだよ。焦らす……ように。ああ、君は本当にいい子だ、ピア……」

 感情を抑えるように、後頭部に置かれたアンソニーの手に力がこもる。すかさず、ピアはふくらんだ突端に唇を被せ、一気に根元まで呑みこんだ。

「う……ううっ」  腰がぶるりと震え、口の中で剛直がさらに昂りを増した。(ああ、熱で舌が焼けそう……)

 ピアは頭を前後に揺らし始めた。口いっぱいに頬張った欲望の先端が、喉の奥を圧迫して苦しい。 それでも、ペニスのビロードのような皮膚の感触が、ピアの舌や顎を愛撫しているような錯覚に陥らせ、彼女は「ん、んふっ」と喉を鳴らしながら一層ひたむきに動き続けた。アンソニーも目を瞑り、心地よさそうな笑みを口に刻んでいる。

(先生も気持ちがいいんだわ……。私も……これ、好き……先生の……)

 ピアは猛りに唾液を絡ませて、じゅぽ、じゅぽっと音を立てながらしゃぶりたてる。『相手の聴覚も刺激すること』。これも彼の指導の一つだ。 しゃぶりながら舌でくびれを刺激し、依然音を立てて全体を吸い上げる。その淫らな音の効果は相手だけではなく、もちろんピアの官能をも刺激し、ドレスの下では、すでに胸の頂が痛いほど張り詰めていた。

(でも、先生ともお別れ……頑張らなきゃ……)

 アンソニーは明日、教職の待つ隣国へ帰らなくてはいけない。彼との授業もこれが最後だと思うと、ピアの胸は切なさに痛んだ。

 アンソニーの教えは最初、理論から入った。用意された何冊もの本から、生体組織や男女の生殖器の働き、病理や妊娠についてしっかり学び、それらの知識を詰め込んだ。その後で、実技の必要性、重要性をじっくりと説かれた。 アンソニーの弁はこうだった。

 ——国を支配するもの、性技が下手で妃を満足させられず、やがて愛想をつかされて、近臣や護衛の騎士に手を出されてはたまったものではない。そのうち愛人たちと親密になり、奸計を企て、謀反を図る話など過去の歴史上履いて腐る程あるのだから。それを防ぐためにも、殿下に極上の性技を仕込むことがこの家庭教師の最もたる目的なのである——。 

 ピアが最初に覚えたのはキスだった。優しいキス、深いキス、貪るようなキス……様々なそれらにピアがだんだん応えられるようになると、アンソニーの指導は日々情熱と濃密さを増していった。

 服の上からの愛撫は、やがて生まれたままの姿になり、手で、唇で、舌で触られ、触れ、お互いを味わいあった。喜びを教えられ、相手に喜びを与えることを学んでからは、弟と妹の外出中は二人書斎にこもり、ピアはアンソニーが体に刻む全ての技巧を受け入れ、彼が満足するまで何度も行為を繰り返した。

(先生の、おっきい……どんどん硬くなっていく) 鋼の熱が口内を擦る甘美な刺激に酩酊しつつピアが愛撫を繰り返していると、彼の腿の上に置いていた手から、ズボン越しに硬い筋肉の緊張が伝わってきた。

  今まで夢見心地だった彼の表情は何かに耐えるように歪み、薄く開いた唇から浅い呼吸に混じって呻きが漏れ始めた。

「ああっ……!ピアっ!」

  彼の手にさらに力が込もり、腰が大きく前後した。ピアはその動きに合わせながら情熱的に首を振り続ける。七歳年上の師を追い詰めるように愉悦を与え、頂へと導いていく。

「ピ……アっ!」

 頭が抑え込まれ、 吐き出された声とともに猛りが爆破した。腰が大きく突き出され、喉が圧迫されて息が詰まる。しかし、ピアは眉を寄せながらも迸る精を必死で受け止めた。喉を焼く熱に性感が蕩け、頭の芯が痺れる。最後まで己を放出したアンソニーは詰めていた息を吐くと、おもむろに身を引いた。心地よい達成感に浸っていたピアを熱っぽく見下ろし、唾液と体液に濡れ、ぽってりとふくらんだ唇にキスをする。

「逆転されてしまったな。合格だよ。では、お望みのご褒美をあげよう」

  微笑んだアンソニーが、まっすぐな眼差しで耳下ろしてくる。ピアの心臓がドクンと跳ねた。彼の瞳に浮かんだ欲望に身を焦がされそうな気がして、ピアは小さく喘いだ。

「そんな欲しそうな顔をするな。これから可愛がってやろうというのに、我慢できなくなってしまう」

  苦笑しながらアンソニーはクラヴァットを解き、頭上で重ねたピアの手首をそれで素早く結んだ。そして結び目をトントンと指で軽く叩く。

「私からの贈り物だ。このクラヴァットを見たら、私とこうして学んだことを忘れないだろう」 

 拘束されピアは一瞬ぽかんとするも、すぐに我に返る。

「は……はいっ。忘れません。先生に教えてもらったこと……絶対に……」「大げさだな」 

 アンソニーの表情に影が差す。しかし、すぐに口元に笑みが刻まれた。

「たっぷり可愛がってやろう、私の可愛いピア……その体が決して私を忘れないくらいに」

  甘い期待にピアは肌を粟立たせた。

「はい……、お願いします」

 アンソニーはシャツを脱ぐと、ピアのドレスの身頃のボタンを全て外して胸を開いた。むき出しになった乳房が彼の前に晒される。すっかり尖りきった先端は、部屋を流れる微かな風にも反応し、一層張りつめた。 彼女をまたいでいるアンソニーは、身を屈めて両手で乳房を下から掬いあげるようにして揉みしだく。

「あ……はぁ」 たちまちまろやかな快感が広がり、ピアは吐息をこぼした。

「乳首が赤くなってるぞ。舐めて欲しいか?」

 ピアはこくりと頷いた。アンソニーはふっと目元をほころばせると、再び乳房を捏ねながら、指の間から突き出た突起を舌先で転がした。

「あぅううっ……」 

優しく舐められ、甘美な刺激に背筋がぞくぞくと痺れる。ねっとりと先端に舌を這わせていたアンソニーは、それを口に含んでちゅ、ちゅっと吸い立てた。胸への愛撫を続けている間も、彼の手はピアの全身を弄り、さらなる愉悦を誘い出すことを怠らない。そして、腿にかかった両手はそれをゆっくりと左右に押し開いた。 蜜に濡れた秘所が露わになり、ペニスの先端が宛てがわれ、くちゅ、と生々しい音が鳴った。彼の熱が濡れた花弁にじわりと染み入る。

(欲しい……先生の、欲しい……)

 ピアはたまらず腰をくねらせてしまう。「こらこら……殿下には、そんなにはしたなくおねだりするものじゃないぞ。私にはどれだけ甘えてもいいが……」 

 咎めるように乳首の根元を甘噛みされ、ピアの体が小さく跳ねた。 

「はい……でも、もう私……」

「欲しいんだろう? では、たっぷり味わうといい」

  胸から顔を上げたアンソニーは、ピアの腿を抱え直すと、そのまま腰を押し進めてきた。雌しべと花弁を馴染ませるように前後に動き、蜜の滴る隘路にゆっくりと屹立を埋めてゆく。腰と腰が重なり、二人は完全に結びついた。ピアが満たされた充足感に震えるため息をついた直後、アンソニーは律動を始めた。逞しい腰を前後させ、彼女の身体を揺する。新鮮な快感が下腹部から湧き上がり、身体中に広がっていく。

「気持ちいいか?」

「ええ……とっても。このまま先生と繋がっていたいです。……ずっと、離れたくない……」 

 決して嘘ではなかった。 

 アンソニーはそれを聞いて一瞬悲しそうな顔をし、それでもピアの高鳴る鼓動に合わせるように、絶妙にリズムを刻んで貫き続ける。そんな初恋の彼と結ばれている幸福感が、快感をさらに増幅させていた。そして、その一体感が却って別れの辛さを呼び、ピアは涙目でアンソニーを見た。

「私だって同じ気持ちだ。できれば君には性技の他にも色々教えてあげたい。他の世界も見せてあげたいと思う。だが、君には君の夢がある。君が夢を叶え、再び会うことがあるなら、きっとまた素晴らしい時間を共有できるだろう」 

 アンソニーがピアを抱き寄せた。ピアは硬い胸に顔を埋めて嗚咽こぼす。彼はしばしじっと彼女を抱きしめ、子供をあやすように頭を優しく撫でていた。「……もう大丈夫です」

  泣き止んだピアが顔を上げると、アンソニーは目尻に残った涙をそっと指で拭い、額にチュっとキスをした。

「ピアは本当に甘えん坊だな。そんなことで殿下に指導できるのか、今から心配だ」

「そ、そんな心配は無用です。妹も弟も厳しく躾けてきましたし。殿下だって同じです」「殿下が年下といえど、男を侮るなんて、まだまだ何も知らないな、君は」

  アンソニーは苦笑し、再び腰を繰り出した。「ああっ、先生っ」  ペニスに内壁がずりゅっと擦られ、快感に声が震えた。アンソニーの背に回した手にぎゅっと力が籠もる。

(あ……先生の形がはっきりわかる……)

  隘路を満遍なくを刺激される快感は、手技や口戯の比ではない。愛蜜や膣の温かさも相まって、すぐにでも達しそうな気配が迫ってくる。

「ああ、中がうねってるよ、ピア。だが、達するには少し早すぎるぞ。これに耐えられないと、殿下を満足させることなど無理だよ」  

冗談めかして言い、アンソニーは密着させた腰で円を描いた。体液が混ざり合い、にちにちと淫らな音が立つ。「こ、これに耐えるなんて無理、です……んんっ」

  最奥を抉られ、ピアは背をしなやかに弓なりにしながら、情欲のうねりを懸命に抑える。

「すぐに諦めるような教育はしなかったがな……ほら、もう少し頑張ってごらん」

 家庭教師はピアの腰を両手で掴み、抽送に加速をつけた。途端に蜜路への摩擦が大きくなり、ピアの忍耐力をごりごりと削っていく。

「だが、君の中も熱く、すごい締め付けなのがわかるかい? こんな素晴らしいものを一度味わったら、男は君を離さないだろうな」

  アンソニーは額にうっすらと汗を滲ませ、息を乱して言った。

(先生が感じている……) 

 たちまち悦びと優越感が湧き上がる。突き上げの激しい衝動に駆られながらも、ピアも自分なりにアンソニーを追い立てようと腰を揺らした。

「う……っ、ピア……」

 アンソニーが悩ましげに眉間に皺を刻む。相手の性感を刺激したことに余裕を取り戻したピアは、自ら腰をくねらせ、アンソニーを翻弄した。

「そ、そんなことを……」

  ペニスに擦られる柔襞から生まれる織りなす愉悦に陶酔しながら、さらに彼を追い立て続けると、アンソニーはお返しとばかりに硬くしこった乳首を摘んだ。人差し指と親指でキュッキュと捻られ、ピアは甘く鳴いた。

 「私がやられっぱなしだと思うな。私は君の全てを知っているのだからね。さあ、私を煽った罰だ」

  顎が掴まれ、持ち上げられた。アンソニーはピアにキスをすると、深々と舌を差し入れ、隘路を貫く動きと同調させるようにピアの舌をしごき、吸いしゃぶった。「んっ、ンフッ、んんっ」  力強い腰つきで犯されながら、キスで口内を凌辱される。隘路の快感とキスの甘い心地に恍惚としていると、さらに彼は双乳を揉みあげた。指が食い込むたび、唇の間で甘い吐息が洩れていく。

「これで、もう私に歯向かうなんてしないね? 君を好きにしていいのは私の方だ」 

 情欲に色濃くなったはしばみ色の眼差しで、とろけ切ったピアの顔を見つめ、アンソニーが口角を上げる。

「はい……先生の、好きにして……ください」

 ピアが喘ぎながら降伏すると、蜜路の中でペニスがグッと質量を増した。アンソニーは苦笑する。「それが、一番効くな……それも、計算してるのか?」

「ち、違います……」

「それならこちらも容赦しない……」

 ピアの言葉を無視し、アンソニーは激しく腰を打ち付けた。貪欲な腰つきがこれでもかとピアを責めたてる。彼の動きは次第に早さと荒々しさを増し、ピアの中の熱い疼きは瞬く間にふくらんだ。素早く何度も突き上げる彼の動きに合わせて、きゅんきゅんと隘路が収縮する。

「ピア……いいぞ、……すごく、いい」

  汗の滲む額に長い前髪が乱れるのもそのままに、アンソニーは呻きながら貫き続けた。

「あ、先生、も……だめ、だめっ、あっ、あ」

「ピア、イっていいぞ……存分にイくんだ。私の可愛いピア……一緒に……」

  ひときわ強くピアを抱きしめ、アンソニーが欲望を解き放つ。ペニスが脈打ち、凄まじい性感が背筋を駆け上った。 ピアも、アンソニーの厚い背中に爪を立てて身体を硬直させた。腰から背中へと、幾重にもさざ波が走り抜ける。
「先生……今までありがとうございました。私、先生に教えていただいて、とても幸せです」 

 絶頂の波が引くと、ピアは顔を上げて囁いた。

「私もだ。君は最高の生徒だったよ。可愛くて、素直で、とても淫らで」 

 アンソニーが微笑み、指の背でピアの火照った頰を撫でる。先ほどの激しい情事が嘘のように、緩やかで平和な空気が部屋を満たしている。

「君は素敵な女性だ、ピア。世界を見て、必ず自分を幸せにする男と一緒になりなさい。もし、見つからなければ、私がいつでも奪いにくるぞ」

 そう言ってアンソニーが茶目っ気たっぷりに片目を瞑ると、ピアは思わず微笑した。 目蓋を閉じ、どちらともなく顔を近づける。唇がそっと重なった。  別れのキスだ。しかと抱き合い、その感触を記憶に刻み込むように、二人は何度も舌を深く絡ませた。 

 いつしか陽光に朱が混じり、部屋を暖色に彩っていた。 遠くから、馬車が屋敷に近づく音が聞こえてきた。明日、彼を連れて行ってしまう馬車だ。 それを思うだけで、ピアの目の奥がじんと熱くなった。 

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