別れ(後編)

 じわじわと膣壁を押し分けて逞しい肉幹が確実に自分を満たしていく。ラシャードのしなやかな身体にしがみつき、浅い呼吸を繰り返していたキアラは、身体を引き裂くような鋭い痛みに、思わず息を止めた。

「痛むか……。すまぬ。おまえのは思ったよりも狭いからな……。私としては嬉しいところだが、おまえは辛いと思う……少しの間、耐えてくれ」

 どことなくラシャードの声音にも余裕が失われているようだ。

「ん……、大丈夫、です……」

 瞼にキスが落ち、再び侵入が始まると、焼けるような痛みがさらに広がる。彼女はラシャードの肩に爪を立てながら、恋人が自分を全て埋め尽くしてしまうまで耐えた。

「おまえが……、私を全て受け入れたぞ、キアラ。だが、まだ終わりではない。これからなのだ……私とおまえの楽園への扉が開かれるのは」

「楽園に……連れて行ってください」

 ラシャードの鼓膜を揺らすその甘い囁きが、潤んだ瞳が彼の理性を麻痺させていく。

 それでも、自分の腕に食い込むキアラの指から緊張が伝わると、彼は暴れる欲望を宥めつつ、慎重に動き始めた。眉を寄せるキアラの表情の変化を見ながらゆっくり腰を送り込む。

「ん……っ……ふぅ」

「やはり、無理はしない方が……」

「大丈夫……です。ラシャード様を、もっと……感じたいのです……」

 そう言った途端、ラシャードはキアラの唇を塞ぎ、舌をキアラに絡みつけて、荒々しくしゃぶった。そうしながらも、律動は徐々に深く、速まっていく。

 舌を絡め、舐め合っていると不思議とキアラの中に押入る異物感は消え、ぬちっ、ぬちっと粘着な音が立つ度に、まだ名も知らない甘い官能が肌の下に波紋が広がる。

 ちくちくと針で突かれていたような痛みはだんだんひりつくような疼きとなり、媚肉を擦り続けるラシャードの熱によってそれは融かされ、愉悦へと変化する。瞼の裏に、薔薇色の靄が膨らんで、すっかり思考を覆ってしまう。ただ、穿たれている場所と、頭の奥の快楽を受け入れる一点を結ぶ線だけが身体を貫き、絶え間無く喜悦を送り込まれながら太くなっていく。

「ぁあ……ん」

 伸縮に慣らされたキアラの内壁は更なる快感を待ち焦がれ、蠢動した。

「そんなに絡み付き、吸い付かれると……、これ以上耐えられそうにない……」

 目をすがめて、ラシャードは困ったような笑みを見せた。

「きて……ください。もっと、もっと強く……」

(ラシャードさまが、欲しい……) 

 目元をまっ赤に染めたキアラが囁くと、もはや彼は一頭の獣に化したように、ゆるりと上体を上げ、寝台に着いた膝を開いた。自然とキアラの脚も広がる。彼はキアラの膝裏を両手で掴むと、ギリギリまで腰を引き、間髪を入れずに一気に奥まで突き上げた。

「……あああぁっ!!」

 キアラの白い身体が大きく跳ねたが、ラシャードは動きを止めず狂ったように打ち込み続け、そのたびにキアラはシーツを握りしめ、嗚咽に似た喘ぎ声を漏らし、身体を悶えさせた。

「……っ……すごいぞ……、キアラ……キアラ…………」

 ラシャードの乱れた呼吸に交じって呼ばれた自分の名が、甘く鼓膜を震わせる。

「ラシャード……、さま……」

 激しい衝撃を全身で受け止めながら、彼女もまた恋人の名を呼ぶのが精一杯だ。

 秘肉に埋まる男根が姿を現す度に搔き出された愛液が尻の曲線を流れ、また打ち合わされる男の肌も濡らしていく。ぐちゅっ、ぐちゅと高鳴る淫猥な水音の中で、キアラの腰も自然と彼の律動に合わせるように動いていた。狂おしいほどに疼きのうねるその場所へラシャードを導くように身を捩る。

「ぁ、あ……あっ………あんっ……!」

 屹立の傘のくびれが内壁の奥を抉った時、キアラはひと際高い嬌声を上げた。

「ここか……」

 ラシャードがぐっと彼女の腰をたぐり寄せると、キアラの一番感じる部分に己を食い込ませるように狙いを定めながら容赦なく貫き続けた。キアラの、またラシャードの身体にじっとりと汗が滲み、雄と雌の濃厚な香りが混じり、漂う。

「あ……っ、だめ……、あっ……、あ、あぁぁぁ……」 

 一層身を捩ったキアラの身体が、内壁が細かく痙攣し、同時に屹立を根元から絞り上げるように収縮する。ラシャードは、根元まで埋めたままさらに最奥に叩き込んだ。

「……っう……ぁ……」

 ラシャードがぶるりと身体を震わせ、キアラの上に被さった。その体にキアラは腕を回し、しっかりと受け止めた。

「すまない……、重いだろう」

 乱れた息が整った頃、ラシャードは身体をずらした。その拍子にキアラからぬるりとラシャードが抜け出ると、彼女は小さく息を漏らした。そんなキアラに王子は優しく口付ける。

「……ラシャード様が熱くて……夢のようでした」

 ラシャードは愛おしげにキアラの髪を、頬を撫でた。

「おまえには私の制御力と忍耐をあっさり打ち砕かれてしまった……。そして、どれだけ大切な者を失いかけたか、それを再びこの胸に抱く悦びに気づかせてくれた……」

「私も同じです……」

 キアラは囁き、今度は自分から恋人に口付けた。

 ラシャードが身体を起こし、寝台を下りる素振りを見せると、キアラは素早くその手を引いた。

「行かないで……、私を置いて行かないでください!」

「麗しい恋人よ、私はまだ行かない。私が明日の朝立つ旨を父に一筆書かねばならない。使者

に手紙を渡したらすぐに戻る」

 ラシャードは安心させるように手を握り、笑みを見せると床に散った服を拾った。

 キアラは身体を起こして、その精悍な筋肉の作り出す動きをうっとりと眺める。視線に気がついた彼が、キアラに向かって目元を綻ばせた。そして乱れた黒髪を手櫛で撫で付けると部屋を出て行った。

 キアラは糸が切れた操り人形のように寝台に倒れると、シーツを巻き付けてラシャードの体温と匂いに再び包まれた。そして今目にしたばかりのラシャードの残像を見た。

 肩から腕、肩甲骨に纏うような筋肉の盛り上がりと、引き締まった腹部。逞しい腰と腿……。その一つ一つが自分の身体に快楽を刻み付け、高みに導いた……。思い出すとまた、身体の奥がきゅっと疼き、熱を帯びる。初めて男というものを知ったのに、怖くなかった。

 ラシャードをずっと知っている気がした。彼で満たされるのがとても自然な気がしたし、彼の手を、唇を舌を、身体のありとあらゆる場所が求めていた。与えられればそこはすぐに敏感に反応し、悦びに溢れた……。自分の淫らな声が耳に蘇り顔を赤らめていると、ラシャードが戻って来た。

 起き上がったキアラを抱きしめ、額に口付けたラシャードの首に腕を巻き付けた時、扉の外で行き交う人の足音と微かな声を聞いた。

「用意ができれば、明日の朝まで二人きりでいられる。誰も邪魔する者は無い」

「用意……?」

 ラシャードの顔を覗き込んだキアラの背中は、アズーラの声を聞いた。

「ご主人さま、準備は整っております」

「ご苦労。下がってよい」

 ラシャードが短く言うと、部屋の外は再び静かになった。

「それでは、参るとするか。レスアの妖女どの」

「きゃ……っ」

 突然抱き上げられ、キアラはラシャードの首に思わずしがみついた。くくっ、と忍び笑いを聞いた耳に唇が触れ、耳たぶを甘噛みされながら隣の浴室へ運ばれた。

 四角い石造りの広々とした浴場の中央にたっぷりと水を張った大きな浴槽があり、水面に光の粒が瞬いていた。浴槽の幅広い縁の上には、果物や切り分けられたパンを乗せた金皿と飲み物の入った壷が、ちりばめられた花の装飾と共に載っている。

 ラシャードはキアラを縁に座らせてから脱衣すると、再び彼女を抱いて浴槽の段を下りた。

 水は冷たすぎず、情事の後の火照った身体に気持がいい。二人は広々とした浴槽の中で身体を伸ばし、水を掛けながら身体を清め、食事をした。

 縁に並んで腰掛け、キアラは肩を抱かれながら水に浸した足を時折動かし、飛沫を跳ね上げる。直に伝わる体温と、穏やかな鼓動が自分のものと同調しているのを感じながら、自然と視線はラシャードの輪郭をなぞっている。

 髪から滴り落ちた水滴が、盛り上がった胸筋の上へ流れ、光の筋を増やして行くのを見る。その水滴を追うようにゆっくりと目線は脚の付け根に吸い寄せられてしまう。淡い光に満ちた浴場で、逞しい腿の間の陰影にそれは穏やかに息づいていた。

 キアラはそれを見ると、身体の奥で再び情欲が湧き上がるのに気がついた。彼女は相手の身体に腕を回し、気遣わしげに覗き込んできた彼にキスをした。顔を離すと、ラシャードが静かに笑った。

「麗しきじゃじゃ馬よ。もうおまえは私を求めるのか? 初めてだったというのに、味を占めてしまったか?」

 そう言いながらも、ゆっくりと腿を撫でるキアラの手つきに彼の欲望も頭をもたげ始めていた。

「ラシャード様だから……もっと欲しいと思ってしまうのです……」

「おまえは欲望を飼い馴らすことを覚えねばな……」

 彼は言いながら、まるで自分自身を諭すようだと思った。キアラは小首を傾げた。

「飼い馴らす、とは……?」

「他のことに気を紛らわすのだ」

 その刹那、ラシャードは彼女の身体ごと水の中に飛び込んだ。

「きゃあ!」

 キアラは驚きつつも身体に回された力強い腕にしがみつき、戯れる人魚のように泳いだ。やがてラシャードは浴槽の段に座ると、キアラを向かい合わせになるように抱き上げ、脚に股がらせて腰を引き寄せた。

 キアラは片手を相手の肩につきながら、逸る手つきで右手を下肢に伸ばしていく。水中で屹立をそっと握り、秘処に充てがう。ぬるり、と水とは違う液体に先端が滑ったかと思うと、すでに先首のくびれまで飲み込まれていた。キアラは手を外して彼の左肩に置くと、ゆるゆると前後に揺れてさらに彼を中へ迎え入れた。

「ン……っ」

 陽根の先端が子宮の入り口に突き当たると、キアラの背が軽く弓なり、固くしこった乳首がラシャードの胸を擦った。背中の曲線を彼の指先がつつっと下りて行くと、肌が粟立ち、男根を包む媚肉がざわついた。

「ラ、シャードさま……」

 ラシャードがいつまでも動き出さないのに不安になり、また結合部で燻っている欲望を早く昇華させたい気持に、彼女は無意識に下肢をラシャードにもじもじと擦り付けていた。

「もう教えることは何も無い。どうすればよいかおまえが良くわかっているだろう?」

 こくんとキアラは小さく頷いた。頬を染めながら瞼を伏せ、腰を前に後ろに動かし始めると、ちゃぷちゃぷと水が肌を打つ。

「あ……、っんぅ……」

 キアラは反らした喉を鳴らしながら、髪を波立たせた。

 ラシャードの舌がねっとりと首筋を這い上がり、甘噛みしながら舌先が肌をくすぐると、キアラの指が彼の肩に食い込み、屹立を根元から揺り動かしている内壁はきゅっと収縮した。キアラの腰が、まるで何かに憑かれたかのように速度を増して淫猥に律動し続ける。時には腰を回し、変化をつけた動きに生まれた新たな快感に喘ぐ。

 キアラは甘い吐息を吐きながら、ラシャードの首にしがみついた。

 彼女は次第に高まる性感に追いつこうとしているのか、前後の抽送に加えて、男根を扱き上げるように身体を上下に動かし始めた。「んっ……、んっ」と感じ入る悩ましげな喘ぎ声が絶え間なく浴室に響いている。その声に合わせるように、ラシャードは力強く下半身を突き上げていた。

「……っはぁ!!」

 ラシャードの首筋に埋めていたキアラの顔が体ごと跳ねる。彼はさらにキアラの腰を引き寄せ密着させると、渦巻く情慾に煽られるまま、蕩けるように熱い蜜路に怒張を抉り込んで行った。じゅぼっ、じゅぼっと淫猥な音を立てながら突き上げる度に華奢な身体が弾け、水面が波打った。キアラは、送り込まれる激しい官能に身体がばらばらになってしまうのを恐れるかのように相手の身体にしがみつき、また、その快楽を助長させるかのように彼に合わせて腰を振り立て、息を弾ませた。

 一度絶頂を迎えた身体はことのほか敏感になっていて、与えられる全ての刺激と快感が結びつき、再びキアラを高みに導いていた。

「あっ……、あんっ、……奥に……………」

 ラシャードを抱くキアラの腕にさらに力がこもり、男根にしゃぶり付くような媚肉の強い密着感に彼は目眩を覚えた。

「……すごい、締まりだ……」

 片手でキアラの顎を掴み、吐息が漏れる薄く開いた唇を塞いだ。「ぅん……ぅん……」とキアラも鼻を鳴らしながら、ラシャードの舌に自分のを巻き付け、擦り合わせた。お互いを殴打させるかのように合わせた舌をそよがせ、新しい刺激を求め合う。

 キアラの顎から外れたラシャードの手が、乳房を強く揉みしだいた。尖った乳首を指先で捏られ、捻り上げられる度に峻烈な刺激がキアラの全身を突き抜けていく。下からは断続的に甘く激しい衝撃を与えられ、上もラシャードで埋められて、出口を無くした悦楽のうねりに呼吸が次第に浅くなる。身体をじわじわと侵食する快感に、身体が強張っていく。怒張の形をはっきり感じるほどに締まる膣壁に抗うかのように、ラシャードの熱の塊が中で暴れ回る。

「あ……、だめ……っ、だめ…………あ、あっ……」

「キ、アラ……ッ!」

 ぐっと腰をラシャードの下肢に押さえ付けられ、さらに深く密着した肉茎がどくどくっと脈打った瞬間、キアラの背筋をひと際大きな喜悦が駆け抜けていった。

「ゃぁあああんんっ!!」

 頭を後ろに反らし、気の遠くなるほどの快楽の余韻を味わう。ラシャードを咥えた膣は彼の全てを吸い込むかのように未だにきゅ、きゅっと蠢動している。

「やぁ……っ………ぁん……」

 一度最奥に己を突き刺したまま動きを止めていたラシャードは、最後の最後まで快感を味わい尽くすように、ぐったりとしたキアラの腰をやや浮かせたまま、どろどろに溶けた蜜路に執拗に腰を送り込み、次第に律動を速めながら再び彼女を打ちのめした。

 外へ誘い出したキアラの舌に自分の舌を合わせて唾液を擦り合わせ、根元からしゃぶりながら指を乳房にきつく食い込ませると、さらにキアラは猛りを締め付けた。乳輪ごと乳首を引っ張り上げると、膣壁が戦慄いた。

 そして、火傷するほどに熱く擦り合わせていた性器が絞り上げられた思うと、ラシャードに痺れるような強い衝撃が打ち寄せた。

「く……っあ……ぁ」

 喉の奥で呻き、彼はキアラの震える喉元に歯を立てながら、果てた。

 何度も絶頂を迎え、精根尽き果てくたりとしたキアラの身体をラシャードは軽く清め、布でくるんで乾かしてから、来たときと同じように彼女を抱いて寝台に戻った。

「ラシャード様……」

 腕の中の恋人は、下りかける瞼と格闘しながらラシャードを見上げて微笑んだ。

「無理をさせすぎたか?」

 彼はまだ湿った赤い髪に指を通しながら、額に、頬にキスをした。キアラはそっと頭を振る。

「これ以上の幸せはありません……、ラシャード様と、ひとつに…………」

 最後まで言い終わらないうちに、すうっと瞼を閉じたキアラにラシャードは口元を綻ばせた。

「幸せ者は、この私だよ……」

 ラシャードはそう呟き、胸に抱いたキアラの静かな寝息を聞きながら瞼を閉じた。

「もう行かねば……」

 濃紺の空に朝陽の光が白く広がり始めた頃、ラシャードは腕の中で寝息を立てるキアラに囁いた。それを聞いたとたん、キアラはぱちりと目を開き、彼の身体に腕を回した。

「私も連れて行ってください!」

「連れて行った所でおまえはどうするつもりだ。戦の共をするのか?」

 ラシャードはキアラの慌てぶりにくすくすと喉で笑った。

「アルハンドロの妻は共に戦地に出向き、ともに闘ったとこの国の歴史は語っています」

 笑われ、やや気分を害したキアラは咄嗟に浮かんだ伝説の勇者の話を持ち出しだ。

「だがおまえはアルハンドロの妻ではあるまい。ましてや幸か不幸か私のでもない。そのおかげで私はおまえが敵の兵を相手に剣を振り回す姿を見ずにすんだのだがな。ここにいてくれ、キアラ。私はおまえが安全な場所にいるというだけで心休まるのだ。そして戦にも集中できる。私は必ず帰って来る。帰っておまえを再びこの腕に抱く」

 彼は何かを言いかけたキアラの唇を素早く口づけで塞いだ。唇を唇で愛撫するような穏やかなキスを交換する。顔を離したラシャードはキアラの頬を親指の腹で撫でた。

「支度が済んだらもう一度会いに来る」

 そう言ってラシャードが部屋を出て行った数時間後、萌葱色のガラベーヤドレスを着たキアラの前に再び恋人が現れた。二人はどちらからともなく抱き合い、キスをした。「大事なことだ」ラシャードはキアラの顎の線を指先でなぞりながら言った。

「宮殿の西の一番奥に書斎がある。本棚の一つに像が彫られたものがあるが、それをずらすと扉がある。それが秘密の通路だ」

 ラシャードは自分の首に掛かっていた鎖をキアラに掛ける。鎖の先には銀色の小さな鍵がついていた。

「私の留守中にここが襲われたり、何か非常な事態になったときこれを使って逃げるのだ。だが、必要以外の使用は一切認めん。おまえ以外の使用もだ。よいな」

 キアラがしっかりと頷くと、そのまろやかな額にキスをしてラシャードは彼女の瞳を覗き込んだ。

「愛してる。私のキアラ」

 キアラは悦びと切なさに胸が一杯になり、喘ぐように応えた。

「愛しています……私の、ラシャード様」

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