和解(後編)

 ラシャードに全裸にされても、まだキアラの中では愛と怒り、そして安堵がないまぜになっていた。ラシャードは彼女の体に腕を回して強く抱きしめると、首筋に顔をうめた。そうして体にキスをし始めると、キアラは細く長い息を漏らしてしまう。

 ラシャードはキスをしながら彼女の背中を撫で下ろし、温かな手は、なだらかな尻の上で円を描いた。彼はそのまま膝をついて滑らかな太腿まで手を這わせていく。その愛撫は、以前のように女の欲望を挑発するものではなく、キアラに対する男の羨望そのものだった。

「許してくれるか? 私の恋人よ」

「どうして、そうしないでいられましょう?」

 キアラはため息の間に、咄嗟に答えていた。

「でも……、不安でたまらないのです。あなたが私よりも信じてしまう恐ろしい偽りが、またいつかあなたのお耳に入るのではと思うと……」

「このようなことは二度と、二度と起こらないと誓おう」

 ラシャードはキアラをしっかりと抱き、柔らかな下腹に頬を押し付けた。

「もう一度言ってくれ」

「何をです?」

「別れる前に、お前が呼んでくれたように、私を呼んでくれ」

「でも、それはご自身が私に禁じたのではなくて?」

 彼女は刹那、侮辱されたことを思い出して憮然と答えた。

「頼むから……! 呼んでくれ……」

 彼は熱に浮かされたように、臍の周りに口づけ始めた。それはさらに下っていき、毛を剃られた恥丘を越えて、くっきりと浮き上がった秘裂に辿り着く。温かく息づく花びらをくにゅりと唇に挟んでその柔らかな感触を味わった後、舌は性急にキアラの中に侵入してきた。それは、ねっとりと優しく粘膜を撫でていたと思うと、勢い良く割り込み、ちゅくちゅくと音を立てて激しく泉を掻き混ぜる。 

「……っ、あ……ふ……っ」

 繊細に、時に荒々しく――交互に繰り返される愛撫に膝の力が抜けたキアラは、ラシャードの腕の中に崩れた。彼女はラシャードをかき抱き、首に、肩に、カンドーラから覗く肌のありとあらゆる場所に唇を押し付けた。

 ラシャードに再び触れ、声を聞き、キスをする。それはキアラに取ってこの上ない幸せだった。

「さあ、呼んでくれ……」

 ラシャードは耳元で熱く囁いた。

「私の愛のご主人様……」

 それを聞いた王子は満面の笑みを浮かべる。そして、寝室まで運ぶのがもどかしいと言わんばかりに、キアラをその場で絨毯の上に押し倒すと身体中をキスで覆った。そして、再び彼は秘部に顔を埋め、今度こそキアラが達するまで唇を、舌を執拗に動かし続けた。

 溢れ出した蜜を花弁に舐め広げ、蜜ごと味わうように一枚一枚を口に含んでいる。秘裂の中心を押し広げるように、柔らかな粘膜に舌腹全体を押しつけ、時間をかけて何度も舐め上げた。ラシャードは時折息を深く吸い込み、花芯を舌先で扱きながら強く吸い上げる。吸っては軽く歯を立て、根元を舌で転がしているうちに、それは脈づき、みるみる固さを増していった。

 腿を強く押さえ込まれたキアラは、容赦なく与えられる愉悦に溺れないよう絨毯に爪を立て、浅い呼吸に胸を波立たせていた。下腹で渦巻いていた快感がうねりながら今まさにキアラを飲み込もうとしている。耳に届く、次第に高まる卑猥な水音に体を火照らせていく。それでも彼の愛撫には挑発は全くなく、それは愛を送り込むためだけに尽きていた。

「ッ……ぁんっ!!」

 ざらり、とラシャードの舌がむき出しになった花芯を強く擦り上げた時、キアラの腰が跳ね上がった。それでも彼は拘束を解くどころか、さらに自分の方へ引き寄せ、わざとじゅるじゅると音を立ててキアラを辱めた。愛撫は今や花芯に集中していた。舌先で強く殴打されたかと思うと、滑らかで柔らかな舌裏ににゅるにゅると撫でられる。そしてまたざらついた舌で擦られ続ける……。強く吸われ、甘噛みをされるとキアラの瞼の裏に光が散る。その光が終結し、どんどん大きくなっていく。キアラの体ががくがくと戦慄き始めた。

「あ……、っ、あ、ラ……シャードさまぁぁ……っ――!!!」

 ラシャードの名がそのまま高い悲鳴に代わり部屋に響いた。硬直したキアラの腰を抱きしめたまま、ラシャードはビクビクと震える熱い秘裂の奥で舌を踊らせた。

「…………ご主人、さま……」

 一瞬手放した意識がもどってくると、キアラは自分を覗き込むラシャードに、これ以上の無い幸せを瞳に浮かべて微笑んだ。

 ラシャードもそれに劣らぬ笑みを返すと、彼女を抱き寄せ、キスをした。舌を絡ませ、深く熱い口づけを交わしながら、興奮に屹立した己を解放すると、開かれたキアラの脚の付け根に充てがった。

 キアラはラシャードの背を抱き、待ちわびていた彼を受け入れた。滑らかに、それでもねじ込むようにして泉の奥を目指し、じっくりと埋まっていく。内襞を擦りながら充填されていく感触にほとんど呼吸を止めていたキアラは、やがて全て満たされ、先端で奥がぐっと圧迫されるのを感じると大きく溜め息をついた。そんなキアラの髪を撫で、ラシャードは優しく口付ける。そして熱を含んだお互いの眼差しが交わると、それが合図であるかのように激しく動き出した。

 先端が顔を出しそうなほど、ギリギリまで腰を引き、猛る欲望を容赦なく突き入れる。それが繰り返される度、キアラはラシャードの腕に爪を食い込ませ、反らした細い喉から嗚咽に似た嬌声を漏らした。

 掴まれた腰が持ち上げられるような錯覚さえ覚える激しい律動は、ますますその速度を上げ、粘膜を摩擦する。溢れ、飛び散った粘液が結合する二人の下肢を濡らしていく。キアラの内壁は、埋め込まれるラシャードの形がはっきりとわかるほど彼を締め上げていた。

「キアラ……お前は、なんと素晴らしいのだ……。これほど蜜を溢れさせ、私をこんなに締め付けて……」

 彼は荒い呼吸の合間に思わず呟いた。柔らかく、しかし欲望を根元から搾り取られるような快感にラシャードの理性は既に壊れていた。抉る度に肉茎から強い刺激が背筋を突き抜けていく。

 ぞわぞわと肌の粟立つような快楽をがむしゃらに貪るように我を忘れて、キアラを穿ち続けていた。肌が打ち合う音に、にちゃっ、にちゃっと粘着さが交じる。その音の間隔がだんだん短くなり、息を乱したラシャードはほとんど性器を合わせたまま、己をキアラの奥へ連打した。弓なりに反ったキアラの全身が、がくがくと震える。

「キ、アラ……っ、っう…………ッハアっ!」 

 乳房の間に顔を擦り付けたラシャードの腰がぶるりと震えた。

 その頭を抱き、自分に押し付けたキアラもすすり泣きのような声を上げた後、ラシャードの重みを受けながらぐったりと脱力した。

「すまない……我慢出来ず、私ばかりが急いてしまった。それほどに、お前に焦がれていたのだ。お前の唇に。瞳に、頬に、手に……」

 呼吸が整った頃、キアラの胸から顔を上げたラシャードの声は掠れていた。バラ色に頬を染め、とろけるような眼差しを向けたキアラは、汗で額に張り付いた恋人の前髪を指先で分けた。

「とても……素敵でした」

 そう言った唇をラシャードは再び塞ぐ。キアラの舌を飴のように舐め回し、優しく吸った。角度を変え、外へ誘い出してはねっとりと小さなそれを舐め上げた。そうしているうちにも、キアラの中に埋まっていた己が再び張りを取り戻し始めた。

 ラシャードは一旦キアラの中から抜け出した。彼女を腕に抱き寝台へ慎重に横たえると、今度こそじっくりと時間をかけてキアラを愛することに決めた。自分も着ている物を脱ぎ、キアラの足下へにじり寄る。

 そして金の細い輪や、小さな宝石に飾られた細い足首を掴んで肩へ担ぐと、開いた腿の間に手を差し入れてさっきまで舌で嬲っていた突起を指の腹で撫で回し、愛撫する。

 すでに二度も絶頂を迎え、敏感になり過ぎていた蕾は、優しく蜜を塗られる度にビクビクと喜悦に震え、ラシャードに応えた。突起を転がし、引っ掻きながら時には襞の間に指を沈めて蜜を搔き出す。そして彼はまた空いた手でキアラの乳房を、緩急をつけた淫らな動きで揉みしだき、深紅に染まった乳首を摘まみ上げた。

「……っああっ! や……、っもう……お願い、です……」

 愛しい恋人が涙を滲ませながら、頬を染めて哀願している。自分を欲して濡らしている。戦慄いている。ラシャードは込み上げる感情に、再び騒ぎ始めた欲望を宥めながらゆっくりとキアラの中に突き進んでいった。彼が腰を繰り出す度に、キアラは甘い溜め息を漏らす。

 うっとりと蕩けるような眼差しでラシャードを見上げながら、彼女は相手をさらに導くように無意識に腰を揺らしていた。そのリズムにラシャードも合わせ、十分にキアラの中の湿りを、熱を、戦慄きを堪能し、緩急をつけた抽送を繰り返しながらゆっくりと快感を昂らせていく。

「っ……ラシャード、さま……わたし、……幸せです……」

「私もだ……欲張りな恋人よ……こんなにも私を深く咥えて…………」

「え……っ、……や、ちがっ……ぅん………っ!」

 一瞬にして頬を染めたキアラは顔を隠そうと身を捩ったが、ラシャードは彼女のふくらはぎをがっしりと掴み、さらに熱い泉の奥へと連続して激しく叩き込んだ。

 完全に腰が浮いた状態で、上から鋭角に捻り込まれ、与えられる新たな刺激にキアラは嬌声を抑えられない。

「ぁ、あ、あ……っ、あ、あっ………」

 ラシャードはキアラの膝を手で押さえるように、伸し掛かり、ぐい、ぐいっと奥を突き続けた。

 傘のくびれが子宮の入口で引っかかり、今までにない濃厚な快楽にどっぷりとはまると、もう何も考えられなくなる。

「ここがいいのだな?」

 キアラは今にも泣きそうな顔でがくがくと何度も頷き、その間にも上から激しく刺し貫かれながら、淫らに響く水音の旋律に合わせて喘ぎ続けた。

 二人は離ればなれになっていた数週間を埋め尽くすかのように激しく愛し合った。

 獣のように四つん這いにされると後ろから捻り込まれ、貫かれている間中乳房を揉みしだかれる。くにくにと捻られていた乳首をきゅっと強く摘まれ、熾烈な刺激に打ちのめされて達すると、今度はラシャードの上でこれでもかと散々突き上げられ、同時に愛芽を指で転がされ、その強烈な刺激にほとんど意識を飛ばしながらキアラは幾度目かの絶頂を迎えると、息も絶え絶えにそのまま恋人の逞しい胸の上に倒れた。

 汗に湿った彼の胸に耳を付け、早い鼓動を聞いているキアラの髪をラシャードは優しく何度も撫でた。そして、顔を上げたキアラの、恍惚を浮かべた瞳に誘われるままにキスをすると、恋人の体をそっとずらし、寝台を下りた。

「どちらへ……?」

 不安げに聞く彼女には応えず、ラシャードは大鏡の前にあった木箱を手に戻って来た。キアラはチェス勝負の時にも同じものを見ていた。

 好奇心を抑えきれずに身を乗り出した彼女を彼は再び押し倒し、その上に屈み込んだ。

「ラシャード様?」

 薄暗がりに、ラシャードが箱から何か取り出すのが見えた。そして、手を取られたキアラの指に冷たい感触が滑る。

「これは……。こんなに美しい宝石をくださるの?」

 キアラは、指に嵌った大きなエメラルドを、溜め息をつきながら眩しそうに見つめた。

「世界中の宝石をかき集めても、おまえの美しさにはとても及ばない」

 ラシャードがさらにキアラに身を沈めると、彼女は手を伸ばしてその体を引き寄せた。しばらくお互いをお互いの唇で愛撫しながらも舌で愛を味わうだけではなく、同じ速度で打つ鼓動を聞き、安らぎを覚えた。

 キアラは瞼を閉じ、ラシャードの温かい手と濡れた唇の下で体を反らせながら、何度も甘い吐息を漏らした。彼は柔らかな乳房をキスで濡らしながら、先端を口に含む。蕾を軽く歯で挟み、舌先でちろちろとくすぐり固くなるまで吸った。下肢に伸ばした指に、キアラの情慾が絡み付くと、ラシャードはもう後戻りが不可能だった。彼女を再び奮い立った己でいっぱいに満たして律動を始めると、たちまちキアラの喘ぎ声は艶やかな嬌声に変わり、しばらく途切れることなく部屋に響いた。

 やっとキアラを解放したラシャードは、しっとりと汗に艶めく彼女の体を次々と装飾品で飾っていった。十本の指全てに指輪が嵌められ、首、手首、足首には幾重にも金や宝石の輪が付けられた。そうしている間も、彼はキアラの体にキスをし、その肌を自分の印で飾ることも忘れなかった。

「どうしてこんなに贈り物をくださるの?」

 ちょうど足首に金の鎖を巻いているラシャードに、キアラは我慢出来ずに聞いた。

「私から、花嫁へのささやかな貢ぎ物だ」

「花嫁?」

 目を見開いたキアラにラシャードはくすりと笑い、宝石の粒でブドウを模した耳飾りごと耳たぶをしゃぶる。

「おまえに自由を、いつでも私から離れられる機会を与える気は全くないが……」

 唇はキアラの頬を滑り、唇へ辿り着いた。

「おまえは私の正室になるのだ。これならおまえは自由になり、同時に私のものになる」

「今、正室って……」

「たった一人の」

 悪戯な笑みを浮かべ、キアラに触れるだけのキスをした。

「でも……」

「異論がありそうだな」

 ラシャードは黙り込んでしまったキアラを覗き込む。

「ええ……、いえ……」

 悦びと戸惑いの言葉よりも、ずっと胸に抱えていた不安がキアラの口をついて出た。

「異論などありません……。でも、他の奴隷たちは?」

「女たちは自由だ。去りたいものは去るだろうし、残りたいものは後宮に残る」

「ええ、でも……」

「まだ何か? 愛しい人」

「えっと……、ラシャード様は彼女たちにそれぞれ恋人を与えるお気持ちは無くて?」

 キアラがおずおずとラシャードを見上げた。

「何のために?」

「だって……彼女たちは一生後宮で一人で過ごすのですか? ラシャード様はもう誰も選ばないとおっしゃったでしょう? そもそも、私は愛する人を誰かと共有するなんて嫌ですし……」

 自分に見せる率直な素直さが愛しく、ラシャードの胸が熱くなる。無意識にこうして自分を煽情するキアラは、本当は美しい悪魔なのかもしれない。それでも自分は溺れてしまった。今すぐにでもキアラを押し倒しそうになる自分を抑え、そっと彼女の髪を梳く。

「無垢な恋人よ。たった数日後宮にいただけでずいぶん耳年増になったようだな。だが、おまえには関係のないことだ。もう黙れ。私はおまえと二人きりの時間を楽しみたい」

 キアラはまだ訝しげにラシャードを見つめている。

「よいか。女はたったの三十人だぞ? これが二百六十四人ならどうなる? どんなに精の強い男でも、全ての女を満足させるのにどれだけ時間がかかると思うのだ」

「それなら……!」

 突然、何かを思い出したようにキアラは高い声を上げた。

「正室となった者は、夫に新しい妻が出来た時、自分から別れられる権利を持つというのは本当ですか?」

 ラシャードは露骨に顔をしかめた。

「一体誰がそんなことを吹き込んだ?」

「本当ですか!?」

 キアラは真剣そのものだ。

「黙れと言ったぞ? キアラ」

 恋人のその切羽詰まった気持は、つい最近自分も経験していただけに、ラシャードには手に取るようにわかった。ただ、自分の不安はこんなに可愛いものではなかったが。

「でも……」

「無理矢理黙らせて欲しいのか?」

 キアラはぱっと顔を赤らめ、口をつぐんだ。

「私の妻になるものは、おまえの考えるような心配とは生涯無縁だと誓おう」

 安心させるように彼は一つ大きく頷くと、そのままキアラの胸に顔を埋め、淡く色づいた突起を唇に挟んだ。

「ラシャード……?」

「なんだ? 私だけの魅惑の情婦よ」

「あの詩は……」

 声を震わせるキアラの言う詩が、自分がキアラを初めて遠ざけ、彼女の心を自分へ強く傾けたあの詩だと思い当たる。

「私が内緒で読んだ詩は、奥様に……?」

「いや、あれは……おまえを思って綴ったのだ。あの頃からすでに亡き妻の姿は霞んでいた。瞼にはおまえの姿しか浮かばなくなっていた……」

 それを聞いたキアラは、手を伸ばしてラシャードを強く抱きしめると、彼は涙で濡れた恋人の目尻を優しく吸った。

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